2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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環境放射能汚染湖沼の除染シナリオの作成に関する実証研究 群馬大学大学院理工学府 教授 角田 欣一 1. 研究の目的と背景 群馬県では,北部,西部の山間部を中心に,福島第一原子力発電所事故による放射性Cs汚染の広がりが判明した.また,赤城大沼においてはワカサギ,ウグイ,イワナなどの魚類に暫定基準値以上の放射性Csの汚染が確認された.さらに,同程度の放射性Csの降下があったと考えられる他県の湖沼や県内の利根川水系の湖沼などと比較しても,赤城大沼における魚類の放射性Cs汚染は,特に高くかつ長期化したため,その原因究明は喫緊の課題と考えられた.そこで,私たちの研究グループは,2012~13 年度の2 年間にわたり,環境省環境研究総合推進費(5ZB-1201)を得て,①群馬県内に降下した放射性Csによる土壌汚染の状況評価とその経年変化の観測,②水圏,特に,赤城大沼と渡良瀬川水系,および対照としての群馬県内の他の湖沼における底質や魚類を含む水棲生物の放射性Csによる汚染状況評価とその経年変化の観測,を行い,行政の協力も得つつこれらに関する基礎的データを取得した.さらに,これらのデータをもとに,赤城大沼および渡良瀬川水系について,放射性Csによる汚染の生態系への影響を総合的に解析し,その原因究明および将来予測を行った.その結果,ア)周辺土壌各地点の底質,土壌中に含まれる放射性Csの化学形態は,ほとんど溶出しにくい形態で化学形態の経時変化は特に見られない,イ)赤城大沼底質の放射性Csレベルは,湖心部では表層にのみ分布していたが,流入部,流出部では深さ10 cm 程度まで分布する,ウ)赤城大沼および群馬県内の対照湖沼に生息する魚類,水生植物,プランクトンなどの水生生物の放射性Csレベル,特に赤城大沼のワカサギの放射性Csレベルは減少傾向が見られるものの現在も汚染が継続している,エ)赤城大沼の湖水の放射性Csレベルは,他の試料に比べて現在も一桁高レベルであること,などが判明した.その後,さらに赤城大沼の湖水やワカサギの放射性Csレベルは,比較的高いレベルで下げ止まっていることが明らかとなった. そこで本研究では,放射性Csの環境動態の解明のための基礎調査を継続するとともに,そうしたデータに基づき,放射性Cs の除染に関する将来シナリオを想定し,各シナリオの現実性,採算性,環境に対するインパクトの有無について実証実験を行った.1)第一段階として,大型水槽レベルの操作実験を行い,各シナリオの効果と影響を明らかにした.2)次に,特に実現性が高いいくつかのシナリオについて現地で隔離水界実験を行いその効果と影響を評価した.3)更に,各シナリオについて,有識者,地域住民,漁業関係者,観光関係者,行政担当者等の円卓会議を開催し,各シナリオについての実行上の問題点を明らかにした. 2. 研究内容 2.1 放射性Csの環境動態の解明のための基礎調査 福島原発事故により放射性Csに汚染された赤城大沼に生息するワカサギの体重依存的なサイズ効果と挙動について検討するために,2012年から2016年にワカサギを捕獲して放射性Cs濃度の測定を行った.その結果,2012年から2015年のワカサギについては体重依存的なサイズ効果が確認され,その効果は徐々に小さくなっていた.一方,2016年に体重依存的なサイズ効果は確認されなかった.この結果は,ワカサギの生育環境である湖水の137Cs濃度が2014年5月以降,一定になったこと,ワカサギが体重依存的なサイズ効果の検出されやすい大型の魚食性魚類ではなく,プランクトンを餌とする小型の魚類であることに関連していると 図1.赤城大沼のワカサギの放射性Csの経時変化 考えられた.ワカサギ0+の137Cs濃度のTeffは2成分で構成されており,137Cs濃度の減衰速度は低下していると示唆された.放射性Cs汚染が長期化した要因には, −192−発表番号 91 〔中間発表〕

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