2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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生体親和性蛍光ラベル化高分子ナノ粒子を用いた細胞内温度計測 プローブの創製 東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻教授 高井まどか 1. 研究の目的と背景 細胞内部の熱産生は、細胞の状態や異常の指標となる。細胞内の温度イメージング技術は、細胞間および細胞内オルガネラの熱産生の違いを検知することで細胞の状態や異常を評価する手段として有用であり、近年、研究が進められている。細胞の状態やガン化による熱産生は以前より報告されていた[1]が、細胞レベルでのイメージングは非常に困難であり、細胞内温度を精密かつ経時的に観察できる手法が求められている。そこで本研究は、温度応答性蛍光分子を内包した生体不活性ナノプローブによる細胞内温度計測を目的とした。 本研究では温度応答性蛍光ローダミンB (Rho B)および、生体不活性材料として知られている2-Methacryl-oyloxyethyl phosphorylcholine (MPC) [2]を使用したブロックコポリマー(poly(MPC)-block-(BMA-co-Rho)-Cou)を合成した。このポリマーには、末端に温度に不官能なクマリン(Cou)を結合させた。この二蛍光をもつポリマーをナノ粒子化し、これを温度計測用蛍光プローブとした。 (図1)。 2. 研究内容 2-1. 実験手順 ブロックコポリマーの合成 可逆的付加解裂連鎖移動(RAFT)重合によりポリマー(poly(MPC)-block-(BMA-co-Rho))を合成した。RAFT剤には4-Cyano-4-(thiobenzoyl-thio)pentanoic acid (CPD)を使用した。ポリマーの親水性鎖は生体不活性材料のMPC、疎水性鎖は疎水部安定のためのn-butylmethacrylate (BMA)および温度応答性蛍光のRho Bのランダム共重合体から成る。poly(MPC)-block-(BMA-co-Rho)の疎水部末端はCPD由来のジチオエステル基であり、還元するとチオール基となる。これを利用し、7-diethylamino-3-(4-maleimido- phenyl)-4-methylcoumarin (Cou)をポリマーに結合させ、二蛍光結合ポリマー(poly(MPC)- block-(BMA-co-Rho)-Cou)とした。ポリマーの組成はプロトン核磁気共鳴(1H-NMR)で、多分散度はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で評価した。蛍光の結合の有無は蛍光光度計で評価した。 ナノ粒子の作製と評価 ポリマーの10 mg/mL 水溶液とポリ乳酸(PLA)の 1 mg/mL dichloromethane (DCM)溶液を混合し、超音波にあて、粒子を作製した。DCMはエバポレーターで取り除かれ、粒子は超遠心分離機 (50,000 rpm, 2 h, 4 °C)で精製された。粒子の形態を透過型電子顕微鏡(TEM)で、粒径および多分散度(PDI)を動的光散乱(DLS)を使用した装置(Zetasizer®)で評価した。また、粒子内蛍光分子の強度の温度依存変化は蛍光光度計を用い、30-40度の範囲で評価した。 ナノ粒子の細胞内取込み 作製したナノ粒子をヒト乳腺上皮細胞MCF-10Aに取込ませ、粒子内蛍光を共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)で観察した。励起光にはRho BとCouに対し、543 nm、405 nmをそれぞれ使用した。 2-2. 実験結果と考察 ブロックコポリマーの合成 1H-NMRにより、ポリマーの組成比はMPC:BMA = 0.54:0.46 (mol/mol)であることが分かった。MPC、BMAのユニット数はそれぞれ24、21であった。GPCによりPDIが1.14であり、狭い分子量分布を持った均一なポリマーが合成されたことが分かった。蛍光光度計により、ポリマーからRho B (Em: 570 nm) 、Cou (Em: 460 nm)の特異的なピークが観測された。ポリマーに二蛍光が結図1細胞内温度計測用プローブの 組成と実験スキーム −10−発表番号 5〔中間発表〕

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