2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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金額が,私的な援助として,第三者に対して支出されている点である。また,()を除く租税支払が,統計的傾向と同様に,多くても%程度と相対的に低い金額である点である。さらに(),被験者の割以上の者が,他者からの金銭的支援を受けつつ,違う第三者を自分が支援していると回答している点である。そして,()半数以上の被験者が,誰かに定期的に金銭的な私的な援助していると回答した点である。尚,これら点の特徴は,特定の製造業企業に勤務する労働者名弱に対象を限定した場合でも,同様の傾向であった。つまり,端的に言えば,少なくてもタイの家計レベルでは,標準的な所得の割程度という無視し得ない経済規模で,日常的に私的な金銭のやりとりがみられるということであり,公的社会保障制度と共に独自に所得再分配の機能を担っている可能性が確認される。加えて,この実態からは,従来から開発経済学で示唆されてきたような,地方の若者が都市部に働きに出て,地方の両親や家族に送金するという経路に加え,都市部内部でも披験者の約割が金銭的な支援をしていることも指摘できる。以上を踏まえ,本研究では,タイで見られる「私的な相互援助」の実態が他国で見られるのかを比較検証し,その経済的機能・意味を析出する。 .独自個票調査の概要と結果表は,タイ,韓国,インドネシアそしてカンボジアでのカ国において,執筆者が独自個票から得た調査結果の概要である。この表から読み取れることとして,まずは,①日常的に誰か他の家計()の者に対して金銭的な支援をしている者は,カ国いずれにおいても存在すると共に,韓国を除くカ国では,いずれも被験者の半数近くに上ることを強調しておきたい。また,国毎のサンプル数に相違があるため,あくまでケーススタディとしての意味であるが,その金銭的規模に注目すると,いずれの国でも被験者の家計での平均収入の割程度が私的な金銭の援助であり,家計レベルでは,一定の所得再分配機能を有している可能性も示唆できる。また,逆に,②日常的に誰か他の家計の者から金銭的な支援を受けている者も,カンボジアとタイでは約半数おり,特に,カンボジアでは,家計の平均的な収入に占める割合も割近くになっている。このことは,私的な援助が,家計収入にとって重要な意味を持っていることを示している。加えて,韓国を除くタイ,カンボジア,インドネシアのカ国では,③他者から金銭支援をしてもらい,自分が第三者に支援をしている者,つまり,自分が他の誰かから金銭的支援を受けつつも,自分が得た金銭を他の違う人に渡しているという者の姿も確認できる。特にカンボジアの場合には,タイと類似しており,そうした者の数も約割程度みられる。こうした状況からは,私的な金銭のやりとりが社会的に広範にネットワーク化している可能性も類推できる。 表:「私的な相互援助の実態」(独自調査より) 今後の展開今回の結果から,か国において私的な人的ネットワークが,両国の人々の間での所得再分配において一定の役割を果たしている可能性が高いことを改めて確認した。それゆえ,今後は,引き続き残りの期間で,他国の実態を調査すると共に,社会経済システム全体における「私的な相互援助」の実態について,社会保障諸制度及び所得再分配の見地から位置づけていく。 参考文献()(竹下公規(訳)『制度・制度変化・経済成果』晃洋書房,年。)()鎮目真人・近藤正基()『比較福祉国家理論・計量・各国事例』ミネルヴァ書房。末廣昭(編著)()『東アジア福祉システムの展望:カ国・地域の企業福祉と社会保障制度』ミネルヴァ書房。連絡先住所:京都市北区等持院北町立命館大学産業社会学部: −185−

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