2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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東アジアindustrial heritage routeの定礎 ――江原道と九州旧産炭地――中央大学法学部 教授中澤 秀雄1.研究の目的と背景 旧産炭地は日本全体を先取りする「超縮小社会」であり、財政破綻した夕張市を代表として苦境に置かれている。我々の研究グループ「産炭地研究会」は、旧産炭地の歴史的価値を再評価し、離れてはいるが親縁性を持つ地域との間をブリッジして新しい情報・資源・人材を流入させる取り組みを通じ、処方箋を見出したいと考えた。すなわち脱工業化・高齢化段階における旧産業地域の再生という、欧州が挑戦してきた課題の東アジアバージョンを探るということだ。ルール地方・イングランド北部・ウェールズ等を典型とする欧州旧産炭地は ①資本主義のふるさとや欧州統合の源流としての自らの位置価を確認し、観光産業のみならず投資・アート・地域マネジメント主体を呼び込むこと ②類似の炭田間のネットワークによって、新たな交流市場と知的基盤・社会関係資本を創出すること、の2方向から再生をはかった。その象徴がEuropean Route for Industrial Heritage財団である。本課題はその東アジア版を目指すための第一歩として、日韓の炭田をブリッジする趣旨で採択された。 2.研究内容まず本課題期間の初年度、2015年7日23日から26日にかけて、研究代表者と日本側共同研究者が、韓国江原道を訪問した。韓国石炭公社長省炭鉱(太白)・江原ランド(舎北)・鉄岩炭鉱歴史村(太白)・三炭アートマイン(三陟)・旧東原炭鉱(舎北)等において責任者や元炭鉱マンからの説明をうけることができた(写真1)。 この訪問の収穫としては次のようなことがある。第一に、インフラとしては産業遺産ブームに対応するような施設が既に存在することの確認である。韓国は日本以上に中央集権化が進んでいるため、太白のような地方都市の人々は日本の20-30年前のような土建国家状況の中で、文化化する上での決め手を見つけられず 模索しているが、施設は整っているし、車さえあればそれほどアクセスしにくくもない。一方で、訪問した施設は日本でもソウルでも知られておらず「僻地」というイメージの払拭が集客上の課題と感じられた。第二に、日韓間には炭鉱用語をはじめとする共通性が多いことも確認できソフト面での交流を進めることの意義を確認できた。江原道は戦前から農業生産性の低いところであり、日本の一部農村地帯のように高付加価値 農産物を生産することも容易ではない。地域特産物の「商品化」は困難であり、自然や歴史を「商品化」せざるを 得ないだろう。このとき、韓国では経済史研究の人気がなく、歴史が整理・研究されているとはいえない。江原道の発展において石炭産業が重要な役割をはたしたことを内外に周知していく作業が、僻地イメージの払拭とともに喫緊の課題だと思われる。このように考えると日韓学術交流の意義は大きい。とりわけ地元にアーキビストや研究者を養成しながら知的基盤を作っておくことは、朝鮮半島統一後、北側の炭鉱群を安全・効率的に運営するという技術的・実用的な意義にもつながると思われる。写真1 韓国江原道・旧東原炭鉱にて 写真2 日韓産炭地ワークショップ@九州の様子 −182−発表番号 87

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