2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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い対応を行うことで、保護者も安心して子どもを預けることにつながる。 ⑤行政からの情報入手日別でみると、震災発生後から行政の情報が何日で入手できたのかも尋ねた。「2~3日後」と「2週間後」の割合が最も高い。このことから震災発生後2週間ほどで回答した園の90%は行政からの情報を得ている。一方で「1か月後」「連絡は受けていない」が少数だが存在していることについては見逃されるべきではない。 ⑥不足している情報別でみると、「個々の子どもの被ばくに関する情報」「内部被ばくを防ぐための情報」「放射線の除染に関する情報」の3つについては全体の55%程度となり、半数が最も入手したい情報であったことがわかる。さらに安全な遊び場の情報や屋内遊びに関する情報、地域の遊び場や道路等の線量に関する情報と、食の安全に関する情報を加えると、全体の95%もの情報が不足していた情報であることがわかった。これらの情報は、子どもの命・健康を預かる保育施設で必要不可欠な情報である。今回、情報の不足状況の結果から鑑みて、保育所に関わる放射線情報はかなり不足していたと考えてよいだろう。 (2)インタビュー調査について インタビュー調査はアンケート調査に加えて、地域別、設置主体別で保育所がそれぞれ放射線情報をどのように入手したのか、情報の信頼度や入手した日などをより個々の保育所に尋ね分析していくために、福島県内6か所の保育所にインタビューを行った。調査対象園は、浜通り(福島原発から20km~50km)、中通り(福島原発から70km)、会津地方に分け、浜通り1か所、中通り4か所、会津地方1か所の合計6か所の園からインタビュー調査の協力を得ることができた。調査期間は2017年2月27日~28日。調査分析にKH-Coder(フリーソフト)を利用しインタビュー内容の計量テキスト分析を行った。特に共起ネットワーク分析から3地域の共通用語として「対応」、「保育」、「子ども」、「職員」、「保育園」が出てきており、この中で特に①保育園、②子ども、③対応についてKWICコンコーダンスを用いて分析した。 ①「保育園」では会津地方では放射線に関わる研修会に保育者が出席しそれを保護者に伝えていく取り組みがなされている。中通りでは放射線に対する情報は保育園からまた保護者や地域、市の広報などから得ている園もある。さらに放射線対応をきちんとしている園に通っている安心感が、子育て支援センターや園への利用につながり、放射線対応が広まるきっかけとなった。浜通りでは放射線情報については学習する機会があった保育者が園長会で話をしたり、放射線状況について提示していく兵法を園長会で検討している。さらに有事の際の「災害協定」を保育園間で結ぶ必要性が語られた。 ②「子ども」では3地域の共通する部分として出てきた内容には「子どもに対する」保育であった。それは給食食材の線量を測って対応することや、散歩、内部被ばく検査などが各地域でなされていることであった。浜通りでは、若い人が戻ってこないことが課題であり、放射線量の影響がなるべく少ない地域に子育て世帯が移住していることや、コミュニティの崩壊を問題視している。 ③「対応」では、会津地方では放射線に対する専門的知識がなく、保護者から様々な情報や相談を受けて対応していった経緯が語られた。中通りでは個別に丁寧に対応していくことと、「同意を取りながら」対応することで保育実践への理解を得ながら進めていった。浜通りでは地域住民への対応についての語りがあり、震災発生直後の2日後にはすぐに話し合い避難がなされた実態が明らかにされた。 (3)全体の分析から(今後の課題) 今回の調査を通して今後の課題の一つに、内部被ばくへの課題が挙げられた。このことは保育者が少ない情報の中で一つひとつの保育内容を精査し、放射線対策を行ってきたが、「あの時」、「こうすれば」という判断への後悔や不安を生んでいる。また地域住民の関係性、保育所―保護者―行政の関係性が適切に機能しているのかについても情報入手の早さや判断に関わっているとも見ることができるだろう。独自ルートで情報を得る必要性があった背景には、特に保育所―行政のやり取りがあまり上手く機能していない結果であり、保育所が行政に対して信頼することができていない現状があるものと考えられる。 3. 今後の展開(計画等があれば) 今後は福島県の震災後、避難を目的として県内もしくは県外に移住した人々(社会福祉施設の利用者や職員)に焦点を当て、その判断を行った情報の経路や判断の元になったもの、生活実態等を聞き取り調査で明らかにする。 4. 参考文献 ・桶田敦(2016)「原子力災害報道におけるローカル局とキー局のニュースの差異」日本災害情報学会『災害情報』No.14,p.3 −181−

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