2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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東日本大震災時における科学的情報の伝播経路について―福祉領域に着目して- 明星大学教育学部教育学科 助教 西垣 美穂子 1. 研究の目的と背景 本研究は、2011年3月11日の東日本大震災発生から6年が経過するにあたり、福島県内の保育所を対象として、放射線情報を保育所がどのように入手・判断し、日々の保育の実践に生かしてきたのかを明らかにするものである。これまで継続して行ってきた調査研究でも「放射線対策」にも焦点を当て、放射線対策を行う上で通常の保育業務の何が増え、どのようなことが行われているのかを明らかにした。例えば放射線量の測定、窓ふき、外遊びを保障していくための室内遊びなどの取り組みである。しかし放射線対策のもととなる、放射線への情報や知識を保育所がどのような影響をもたらすのかという研究はあまりなされてこなかった。さらにこれまで 保育分野においても、情報が実践にどのような影響をもたらすのかという研究もあまりなされていない。 2. 研究内容 (実験、結果と考察) 本研究では「放射線情報」を中心に、震災発生後からこれまでその情報をどのように入手したのか、その情報量と内容とは何か、また情報元の信頼度、保育実践や保育業務に生かすためにどのような判断を行ってきたのかを明らかにする。調査方法にはアンケート調査とインタビュー調査で行った。 (1)アンケート調査について 調査期間は2016年12月10日~2017年3月8日。調査対象者は福島県保育協議会加盟園320カ所。調査手法はインターネット調査(総回答数34件/有効回収率10.6%)。回収率を上げるために、まず園での行事が集中する10月~11月は避け、年末に近く比較的、園の行事が少ない12月を調査時期と設定した。また福島県保育協議会との連絡を密に行い、調査体制を整えた。しかし有効回答率が10.6%と低く、今後の課題である。 ①設置主体別では「市町村(行政)」19施設が最も多く、次いで「社会福祉法人」(12施設)、「学校法人」(2施設)、「福島医療生活協同組合」(1施設)である。 ②遊びに関する園の情報信頼度別では、外遊びについて園が「とても信頼できた」「そこそこ信頼できた」との回答を合わせると、「専門家からの助言や情報」「学習会・勉強会・研修」「他の保育園、幼稚園からの情報」の3つが信頼できる情報源として挙げられた。一方で「ほとんど得られなかった」とする回答も同様の選択肢で多い。また口コミ、SNS、インターネットに関しての信頼度は「あまり信頼できなかった」と回答する割合が多かった。これはインターネット特有の匿名性問題が関連しているのではないか。次に行政が発行している「行政の広報」「行政のHP」については「とても信頼できた」「そこそこ信頼できた」という回答の割合が多い。一方で「あまり信頼できなかった」という回答割合も多い。緊急時においてはインターネットや電話などの既存の通信機器がほぼ使用できない場合もあり、行政に関してはこのような事態を避ける必要がある。 ③食に関する園の情報信頼度別では、②の遊びと同様に「専門家からの助言や情報」「学習会・勉強会・研修」「他の保育園、幼稚園からの情報」は「とても信頼できた」「そこそこ信頼できた」とする割合が高い。これは自ら得た情報であることもその理由であろう。一方で「家族・友人・地域・住民からの口コミ」「SNS」「その他のインターネットからの情報」に関しては、全回答中で総じて「あまり信頼できなかった」の割合が高い結果であった。行政機関のHPや広報誌に関しては「とても信頼できた」「そこそこ信頼できた」割合が高い。しかし行政の情報が信頼できると回答される一方、「ほとんど得られなかった」とする回答も存在し、物理的に情報を得ることができなかったことも要因としてあると考える。 ④保護者との情報交換別にみると、「子どもたちの毎日の送り迎えのときに行っていた」と「アンケートを行っているもしくは行ってきた」の割合が高い。その一方で「学習会などを行う」や「保護者会で行っているもしくは行ってきた」という割合はあまり高くないことから、特別な会を設けることなく、日常業務の中で保護者と保育者は情報交換を行っていることが分かった。さらに園が保護者にアンケートを行っている場合もあり、それを行うことで個別具体的な問題に対しても対応していることがうかがえた。これは放射線に関する情報は非常にセンシティブが高い情報であり、捉え方も多様である。一度に大人数に情報を流すのではなく、個別具体的に対応していたものと考えられる。園がこのようにきめ細か −180−発表番号 86

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