2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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クリアすべき問題点があることが発覚した。その詳細を図2に示す。現状では、測定したい構造体上の金属プラズモンのほかに、基板にコートされた金属プラズモンも同時に発生する。この基板上のプラズモンピークの存在は、構造体上のプラズモン解析に悪影響を及ぼす。 そこで金属と構造体、金属と基板との界面エネルギー差を利用して、構造体の上の金属のみの剥離を試みた。その結果、200 nm程度の直径を持つ金属ナノカップを作製することができた(図3a)。このサイズはちょうどウィルスと同程度であり、ウィルスとほぼ同サイズ・同誘電率のポリスチレン微粒子が選択的に吸着される(図3b)。この金属ナノカップ構造はポリスチレン微粒子吸着前後によりプラズモンピークがシフトすることが分かり、ウィルスのセンシング材料として有望であることが示唆された。1 このように、ナノスペースの粘性流動の制御から、界面エネルギーの制御を経て、ウィルス検知に有効な金属ナノカップ作製という当初想定よりも大きな進展を見せた本研究であるが、現状疑似ウィルス吸着前後でのピークシフトが小さいという問題点がある。理論計算から、より薄く・より深いナノカップを作製することにより、ピークシフトが100 nm程度、すなわち目で見て色でわかるレベルになることが示唆されている。 3. 今後の展開(計画等があれば) 本研究項目aに関し、プラズマエッチングによりマイクロサイズの興味深い構造の作製なども行われた。3ただし、このエッチングプロセスは粘度が低くなったポリマーの表面張力を利用するため、残念ながらナノスペースでの興味深い構造作製には利用できなかった。 また、本項では紹介しきれなかったが、トップダウンリソグラフィーと組み合わせ、より複雑な形状の誘電体-金属機能界面の形成とそのプラズモニクス特性の測定も行うことができた。5, 6今後、この研究を発展させ、特にプラズモニックカラーへの応用を検討していきたい。 本研究が遂行できたのは、旭硝子財団様のご助成のおかげです。深く感謝申し上げます。 4. 参考文献 1. T. Tatsuno, T. Okamoto, T. Ezaki, T. Isobe, A. Nakajima and S. Matsushita, Bull. Chem. Soc. Jpn., 2016, 89, 369-374. 2 .S. Saito, T. Sannomiya, T. Miyamoto, T. Isobe, A. Nakajima and S. Matsushita, Colloid. Surf. A, 2013, 436, 930-936. 3. S. Sano, K. Nishioka, A. Matsutani, T. Isobe, A. Nakajima and S. Matsushita, Colloid. Surf. A, 2015, 486, 1-5. 4. T. Miyamoto, S. Saito, T. Isobe, A. Nakajima and S. Matsushita, Chem. Commun., 2012, 48, 1668. 5. T. Takahashi, A. Matsutani, D. Shoji, K. Nishioka, M. Sato, T. Isobe, A. Nakajima and S. Matsushita, Coll. Surf. A., 2015, 484, 75-80. 6. T. Takahashi, A. Matsutani, D. Shoji, K. Nishioka, M. Sato, T. Okamoto, T. Ezaki, T. Isobe, A. Nakajima and S. Matsushita, Coll. Surf. A., 2017, 513, 51-56. 5. 連絡先(掲載してよい場合、住所、電話番号、E-mailアドレス等) 東京工業大学物質理工学院、〒152-8550東京都目黒区大岡山2-12-1 S7-8、Tel: 03-5734-2525, E-mail: matsushita.s.ab@m.titech.ac.jp 図2サンプル上に発生するプラズモン模式図 図3疑似ウィルス吸着前後の金属ナノカップの電子顕微鏡像。前(a)、後(b)。1 図4疑似ウィルス吸着前(青)及び後(赤)の顕微分光スペクトル変化。1 図5二次元コロイド結晶上へのプラズマエッチンにより形成されたマイクロポリゴン。3 −9−

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