2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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影響があることが示された。ただし、風車から距離が離れるほど幸福度が高いことから、景観的な側面を除くと風車から距離を取ることが人々にとって望ましい可能性が示された。 最後に風車の建設に望ましい状況について考察する。今回の分析結果では、予想と反して風車は人々の幸福度にマイナスに影響するような効果は示されなかった。風車の景観についてみると、人々に対してマイナスどころかむしろプラスに影響する可能性が示された。銚子市では風車以外にも人々の住宅付近に大型建造物や風車以外の騒音等が存在しており、それら要因を含めてそれほど否定的な意見は多くない。よって、風車建設をするのであれば、すでに人々の居住環境に騒音や低周波が存在し、風車の追加的な影響が小さい地域が望ましいといえる。また、風車の景観に関してもすでにその他の人工建造物が近辺に存在する環境では人々にとってはそれほど否定的に評価されることもなく、むしろ肯定的に捉えられる可能性が考えられる。 3. 今後の展開(計画等があれば) 本研究では洋上風力発電を導入していく際に重要となる地元住民との合意形成の枠組み構築していく第一歩として、すでに導入実績のある風車の外部性について明らかにすることを試みた。具体的には主観的幸福度の分析手法によって、風車が人々の幸福度にどのような影響を与えるか分析を試みた。分析に使用するデータは銚子市の住民から郵送法により収集した。 主観的幸福度指標も用いた分析結果を見ると、風車の景観は人々の幸福度にプラスに影響する可能性が示された。特に1000m~1500m当たりの距離に居住する人々の幸福度にプラスに影響する可能性が示された。しかし景観要素を取り除くと、距離に関しては風車から遠い方が人々の幸福度がプラスになる可能性も示されており、つまり景観的な側面を除くと風車から距離を取ることが人々にとって望ましい可能性がある。ただし、今回の分析からは景観的な側面以外の風車の特性が騒音や低周波なのか、あるいは風車が建設された地域の特性を表すものなのか詳細を把握することは難しい。 以上の結果を踏まえると、風車建設の際、風車の外部性として懸念される要素が地域住民にどのように捉えられているかをその地域毎に見ていく必要がある。騒音や低周波の外部性に関して、今回のアンケートでは住民に主観的にはそれほど問題視されていなかったが、すでに風車以外に騒音や低周波の原因が存在し、住民がそれを許容している地域なのかどうかを把握することは重要である。また、風車の景観に対して住民は肯定的に感じているか否定的に感じているかも詳細に把握することが望ましい。肯定的な意見が大多数であるならば、風車の景観がその地域にとっての観光スポットになることも考えられるからである。これら外部性に対する地域住民の意識を考慮した上で、合意形成に繋げていくことが望まれる。 4. 参考文献 Levinson, A. (2012) Valuing Public Goods Using Happiness Data: The Case of Air Quality. Journal of Public Economics, 96, 869-880. 5. 連絡先(掲載してよい場合、住所、電話番号、E-mailアドレス等) 〒169‒8050 東京都新宿区西早稲田1‒6‒1 E-mail toshi.arimura@gmail.com 表1分析結果 変数係数標準誤差係数標準誤差風車見える1500m以内×風車見える1500m以上×風車見える(距離ダミー)500m~1000m1000m~1500m1500m~2000m2000m~性別ダミー(男=1、女=0)就労ダミー対数年齢対数年齢(二乗)(所得ダミー)200万~300万300万~400万400万~500万500万~700万700万~1000万1000万~1500万1500万~高卒後進学ダミー既婚ダミー(築年数ダミー)10年~20年20年~30年30年~定数項観測数決定係数モデル(1)モデル(2)注1:***、**、*はそれぞれ1%、5%、10%水準で有意である ことを示す。 注2:回帰分析は頑健推定を行っている。 −179−

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