2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
188/223

地域コミュニティのWellbeingに配慮した 再生可能エネルギー促進策の経済分析 早稲田大学政治経済学術院教授 有村俊秀 1. 研究の目的と背景 我が国において、再生可能エネルギー(再エネ)は気候変動対策やエネルギー安全保障の観点から大きな期待が持たれている。しかし、日本におけるポテンシャルの活用は充分には実現されないでいると言われている。一つの理由は、期待の大きい洋上風力発電や地熱発電等の普及が、固定価格買い取り制度の導入にもかかわらず進まないことにある。これは再エネ開発が地域の外部不経済、それに伴うコミュニュティ対立をもたらす場合があるからである。そこで対立を克服する枠組みを示して洋上風力発電の迅速な実現を目指すための研究が必要である。便益の地域還元の形を示し、再エネ施設建設の迅速な実現を目指すための方策の検討が必要であるが、そのためには再エネ発電施設がもたらす外部不経済を明確にする必要がある。ただし上述したように我が国において、洋上風力発電の普及はそれほど進んでおらず、分析対象となる地域の特定は困難である。そのため本研究では、すでに導入されている風力発電を取り上げ、開発の地域社会への環境影響・経済影響やコミュニティへの影響について分析する。 2. 研究内容(実験、結果と考察) 本研究では人々の主観的幸福度を用いて分析する方法を試みることにした。近年、主観的幸福度から人々の周りの環境を評価する方法が注目されている。例えばLevinson (2012)による主観的幸福度と大気汚染の研究等がある。本研究でも主観的幸福度を用いて風車の外部性を分析することにした。この方法を用いることによって、居住地の近くに存在する風車が人々の幸福度に与える影響についても考察・検討が可能となる。 アンケートは千葉県銚子市で実施した。アンケート方法に関して、風車の近くに居住する人々からの回答を多く得るため、ある程度こちらが地域を特定する必要があった。そこで特定地域の人々からアンケートを採取する方法として郵送法を用いた。住民台帳を使用して600人を無作為に抽出して各個人宛てにアンケート用紙を配布した。 また、今回、風車からの距離と住民の幸福度との関係を調査するため、回答者の居住地域とそこから一番近い風車までの距離をgoogle mapを元に計測した。 得られたデータをもとに、回帰分析を行った。被説明変数として左辺には人々の主観的幸福度を用いた。主観的幸福度は人々に今幸福かどうかを11段階(0点から10点)で評価してもらった指標である。説明変数として右辺には風車の情報の他、性別ダミー(男=1、女=0)、就労ダミー、対数年齢、対数年齢の二乗項、所得ダミー(8段階)、高卒後の進学ダミー、既婚ダミー、居住地の築年数ダミー(4段階)を用いた。風車情報としては自宅から風車が見えるダミー(見える=1、見えない=0)、距離が1500m以内ダミーかつ風車見えるダミー(以下、1500m以内×風車見える、距離が1500m以上かつ風車が見えるダミー(以下、1500m以上×風車見える)、距離ダミー(5段階)を使用した。 回帰分析結果は表1にまとめた。今回、2つのモデルの分析結果を示すが、それぞれ風車情報として使用した変数が異なる。モデル(1)は風車情報として自宅から風車が見えるダミーと距離ダミーを使用した。モデル(2)は1500m以内×風車見える、1500m以上×風車見える、距離ダミーを使用した。 モデル(1)から、風車が見えた方が幸福度にプラスとなる可能性が示されている。また、距離に関しては1000m~1500m地域で幸福度にプラスとなる可能性が示されている。モデル(2)を見てみると、1500m以内×風車見えるは幸福度にプラスの可能性が示されたが、1500m以上×風車見えるは有意な結果は得られなかった。モデル(2)の距離ダミーに関しては、1000m~1500m、1500m~2000m、2000m~のそれぞれ地域で幸福度にプラスである可能性が示された。しかもこれら距離ダミーの係数を比較すると距離が離れた地域ほど大きく幸福度により大きな影響を与える可能性が示された。 回帰分析の結果をまとめると、風車は見えると幸福度にはプラスの影響がある可能性があり、特に1000m~1500m当たりで風車が見える場合は幸福度にプラスの−178−発表番号 85 〔中間発表〕

元のページ  ../index.html#188

このブックを見る