2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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産出資本比率が一定となる. これらの条件に基づき,産出資本比率に関する微分方程式を導出することが可能となる.さらに,この微分方程式の定常均衡解を分析することで,枯渇資源が存在する経済において,人口1人当たり産出の成長率と人口成長率の関係を分析することが可能となる.分析結果は次のようになった. まず,人口成長率がプラスの場合,産出資本比率に関する微分方程式の定常均衡値は正となり,この値を用いて人口1人当たり産出の成長率を計算すると,人口成長率,枯渇資源の投入賦存比率,これら2変数の関数となることがわかる.さらに,人口1人当たり産出の成長率は,条件次第で,正の値をとることがわかる.人口成長率の増加関数となるか減少関数となるかは,生産関数が資本ストックと労働に関して収穫逓増か収穫逓減であるかに依存する.収穫逓増の場合は,人口1人当たり産出の成長率は,人口成長率の増加関数であり,それに対して収穫逓減の場合は,人口1人当たり産出の成長率は,人口成長率の減少関数である.枯渇資源の投入賦存比率に関しては,人口1人当たり産出の成長率は,減少関数となる. 次に,人口成長率がマイナスの場合,産出資本比率の値は,長期的にゼロに収束する.このとき,人口1人当たり産出の成長率は,人口成長率の減少関数,かつ枯渇資源の投入賦存比率の減少関数となる.また,人口1人当たり産出の成長率は,条件次第で,正の値をとることがわかる.これは,枯渇資源が存在し,かつ人口が減少する経済であっても,持続的な経済成長が可能であることを示唆している. 3. 今後の展開(計画等があれば) 本研究の結果は,特定の条件下で得られたものであり,より一般化する必要がある.とりわけ,分析に使用した生産関数がコブ=ダグラス型であることは制限的であり,得られた結果に大きく影響している.コブ=ダグラス型生産関数は,マクロ経済分析において広く使用されている生産関数であるが,生産関数の変数である資本ストックと労働の代替の弾力性が1に等しいという特殊な生産関数である.しかし,多くの実証研究が示していることは,マクロ経済における資本ストックと労働の代替の弾力性は1より小さいということである.これは,マクロ経済を記述する生産関数は,コブ=ダグラス型ではないことを示唆している. この点に関連して,本研究に関連する研究代表者の最新の論文である“The Solow Growth Model with a CES Production Function and Declining Population”では,資本ストックと労働の代替の弾力性がゼロから無限大の間まで任意の値をとることが可能なCES型生産関数を用いて,一般的な新古典派成長モデルにおいて人口成長率がマイナスの場合に,長期における人口1人当たり産出の成長率がどのように決定されるのかを分析した.その結果,資本ストックと労働の代替の弾力性が1より小さい場合,人口成長率がプラスであってもマイナスであっても,長期における人口1人当たり産出の成長率は,外生的に与えられる技術進歩率に等しくなることがわかった.これに対してコブ=ダグラス型生産関数の場合は,長期における1人当たり産出の成長率は,技術進歩率がゼロであっても,人口成長率に資本分配率を乗じた値(の絶対値)に収束する.つまり,資本ストックと労働の代替の弾力性が1であるかどうかは,得られる結果に大きく影響するのである. 今後は,上述の論文の成果に基づき,CES型生産関数を用いて,枯渇資源が存在し,かつ人口成長率がマイナスの場合,長期における人口1人当たり産出の成長率がどのように決定されるのかを分析したいと考えている. 4. 参考文献 Bretschger, L. (2013) “Population growth and natural-resource scarcity: long-run development under seemingly unfavorable conditions,” Scandinavian Journal of Economics 115 (3), pp. 722-755. Sasaki, H. and Hoshida, K. “The Effects of Negative Population Growth: An Analysis Using a Semi-Endogenous R&D Growth Model,” Macroeconomic Dynamics, forthcoming. Sasaki, H. “The Solow Growth Model with a CES Production Function and Declining Population,” mimeo. 5. 連絡先(掲載してよい場合、住所、電話番号、E-mailアドレス等) 606-8501 京都市左京区吉田本町 京都大学大学院経済学研究科 E-mail: sasaki@econ.kyoto-u.ac.jp −177−

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