2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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人口減少経済における枯渇資源の影響と持続的経済発展の可能性 京都大学大学院経済学研究科 教授 佐々木 啓明 1. 研究の目的と背景 これまで,枯渇資源は経済成長にどのような影響を与えるかに関する研究が数多くなされてきた.枯渇資源は経済成長に対する制約となりうる.この制約を緩和するような資源節約的な技術変化が内生的に生じる経済成長モデルも数多く生みだされてきた. その一方で,人口成長は経済成長に対する制約となるのかという研究も数多くなされてきた.内生的成長モデルの一種である規模効果のない半内生的成長モデルでは,人口成長率がプラスの場合,人口1人当たり産出成長率が人口成長率の増加関数となる.つまり,人口成長率が高い国ほど,人口1人当たり産出成長率が高い,という結果が得られる. これら2つの要素すなわち枯渇資源と人口成長が経済成長に与える影響を数理モデル化したのが,Bretschger (2013)である.この論文は,枯渇資源という制約がある場合であっても,ある条件下では,人口成長があれば,人口1人当たり産出は持続的に成長しうることを示した.彼は,世界の人口は増え続けているという現実に基づいてモデルを構築した. 確かに世界の人口は増え続けている.しかし,先進国では,人口があまり増えていないどころか,日本のように減少している国もある.そこで本研究では,人口減少経済における資源制約の影響を捉えるために,枯渇資源制約があり,かつマイナスの人口成長を考慮したモデルを構築する. 人口減少は,経済成長にとって負の影響を与えると広く考えられている.たとえば,年金システムの維持や税収面において,人口減少に伴って経済のパイが小さくなることは負の影響があるように思われる. しかし,経済学的に考えると,経済厚生にとって重要なのは1人当たり所得水準である.国民所得が一定であるかぎり,つまり経済成長がなくとも,人口減少は1人当たり所得水準を増大させ,経済厚生を上昇させる.さらに,人口減少により,枯渇資源のような資源制約が緩和される可能性もある.人口が減ることにより,資源の総使用量が減少するからである.したがって,単純に人口が減るだけであれば,人口減少は必ずしも負の影響を与えるわけではない. 本研究の目的は,資源制約がある経済において人口成長率がマイナスの場合,長期的にどのような経済発展経路が得られるのかを,数理モデルを構築して分析を行うことである.これにより,先進国において現実に生じている人口減少と資源の枯渇化が経済成長に与える影響を分析することができ,持続可能な社会の実現に向けた政策提言を行うことが可能となる. 2. 研究内容 生産関数の変数として,一般的な経済成長モデルで想定される資本ストックと労働に加えて,枯渇資源を導入し,3要素のコブ=ダグラス型生産関数を定式化した.そして,それぞれの生産要素に関して増加関数であると仮定した.時間の経過とともに,3つの生産要素がどのように変動するのかを説明しよう. 資本ストックは,企業の設備投資により蓄積されていく.このモデルでは,投資は貯蓄と等しく,さらに産出の一定割合が貯蓄されると仮定する.したがって,産出に貯蓄率を乗じたものから,毎期の資本減耗分を引いた残りが,毎期の資本ストックの増分になる. 労働人口が全人口に占める割合は一定であり,かつ労働は完全雇用されると仮定し,したがって,労働投入は人口に等しく,人口は一定の率で変化すると仮定する.ここで,本研究の目的に照らして,人口成長率はプラスの場合とマイナスの場合があるとする. 枯渇資源については,初期賦存量が与えられており,生産で使用するにつれて減少していくものとする. 以上の設定の下,長期における経済成長を分析した.ここで長期とは,均斉成長の状態であり,均斉成長とは,モデルにおける主要な変数が一定率で成長する状態のことを指す.われわれのモデルにおける均斉成長の状態では,枯渇資源を利用するスピードと枯渇資源が枯渇していくスピードが等しくなる.これより,長期では,生産関数の変数である枯渇資源投入量と枯渇資源賦存量の比率(以後,投入賦存比率と呼ぶ)が,一定となる.さらに,一般的な経済成長モデルと同様に,均斉成長の状態では,産出量を資本ストックで割った値,すなわち −176−発表番号 84 〔中間発表〕

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