2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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炭鉱開発と地域社会の変容に関する調査研究―長崎県池島の事例 大阪大学全学教育推進機構准教授 中村征樹 1. 研究の目的と背景 将来にわたって持続可能な地域社会のあり方とはどのようなものか.地域社会のサステイナブルなあり方を可能とするエネルギーのあり方とはどのようなものなのだろうか.本研究ではそのような問いの検討に資するべく,原子力エネルギーの興隆と逆行するかたちで,1960年代以降,衰退の一途をたどっていった日本国内の石炭産業の現場である産炭地域に注目し,それらの地域が被った変化と,炭鉱閉山後に直面した課題がいかなるものだったのかについて検討を行う. 2. 研究内容 2.1. 人口動態 地域社会の変化をもっとも特徴的に物語るのが人口変化である.池島の人口は炭鉱開発が始まった1950年代から現在に至るまでのわずか60年強できわめて大きな変動を遂げてきた. 1952年には300人弱にすぎなかった池島の人口は,営業出炭の開始した1959年の翌年には3,000人を超え,1966年には7,000人を超えた.大島炭鉱の閉山した1970年には最多の7800人近くを数えることになる.その後,1970年代には人口は漸減し,年間出炭量がピークを迎えた1985年以降,人口は大きく減少し始める.閉山を迎えた2001年には2,500人前後いた住民は,翌年末には650人近くにまで急減した.その後,人口は着実に減少し,2017年現在,150人程になっている. 図1. 池島の人口の推移 炭鉱操業時の池島の住民は,全国的にみて「若い」人口構成となっていた.図2は1985年の年代別の人口構成について,池島と全国を比較したものである.60代以上の住民がきわめて少ないことが特徴的である.池島の老齢化率は閉山後の2005年に至るまで,全国平均に比べて著しく低かった(図3). 図2. 年代別人口構成比1)2) 図3. 生産年齢人口指数・老齢化率の変化1)2) しかし,2010年前より池島の老齢化率は急速に上昇し,2015年には6割以上に至っている.同時に,生産者年齢人口指数も急落している.閉山から十年を経たころから,地域社会から生産年齢世代が急速に減少しているのである. 2.2. 炭鉱開発に伴う地域社会の変化 炭鉱開発に伴って,地域社会は具体的にどのように変化したのだろうか.ここではインフラや生活環境面の変化に注目してその一端を紹介する. −174−発表番号 83 〔中間発表〕

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