2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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都市域居住者生活スケジュールの確率予測に基づく2次側トータル・ユーティリティ・デマンド高時間分解能予測手法の構築と都市域のピーク電力デマンド抑制策のシナリオ予測 九州大学大学院教授 谷本 潤 1. 研究の目的と背景 現在,住宅系建物では電力と熱の需要が同時に発生する特性を利した家庭用コージェネレーションシステムを普及させることで,総合効率を向上させようとの試みに大きな期待が寄せられている.高い総合効率,コンパクトなシステム構成のためには,電力と熱(給湯)のデマンドが時間的に大きく乖離しないことが鍵になり,夫々のシステム特性に応じたベストな要素機器構成,設計法,運用プロトコルの構築が重要な技術的課題となるが,そのためには2次側の電力,ガス,熱,水等々のユーティリティデマンドを高時間分解能で予測する技術を確立する必要がある.また,東日本大震災の影響により,夏期ピーク時の電力供給事情逼迫が予測される中,気象要素,居住者行動,電力機器特性のばらつき等あらゆるフェイズに介在する確率的揺らぎの影響を考慮した高時間分解能かつ高精度の電力デマンド予測手法を確立することが強く求められている.本研究では平成22年度の旭硝子財団助成により足掛かりを得た都市居住者の生活スケジュールを確率予測する手法をベースにした包括的積み上げ法に基づく枠組みTotal Utility Demand Prediction System(TUD-PS)に都市キャノピー内で高密化する建物により減却される建物換気・通風効果を組み込む等々の細緻化,高精度化を行いRevised TUD-PSを構築することを目的とする. 2. 研究内容 (1)冷暖房の発停確率モデルの高精度化 2014年夏季に福岡の20住戸を対象として実施した冷房使用行動に関する実測調査結果で得られた冷房使用のイベントベース統計量に関する解析を行った.その結果,既往のTUD-PSで仮定していたOn→Offの確率状態遷移をMarkov連鎖で近似することが誤差要因となることが示唆された.これは,冷暖房停止のトリガーは外気温だけでなく他の因子が影響していることに依る.そこで,全サンプルを冷房使用頻度別に3クラスに分け,中程度,高頻度の住戸データをもとに,イベント開始時間毎に1回の冷房継続時間の確率密度を算出した.これにより,冷暖房開始は既往と同じく室内OTを引数とする状態遷移確率で決定,継続時間を付与することにより,1回の冷暖房イベントの確率性状を再現することが可能となった(図1). 図1新たな冷暖房イベントの確率推定モデル 上記の新たな確率アプローチにより向上した推定精度を図2に示す.新モデルによる1日当たりのイベント回数は実測結果をきわめて良くトレースしている. 図2新旧TUD-PSモデルによる2014年夏期シミュレーション結果における1日当たりの冷房イベント生起回数の確率密度関数の実測との比較. (2)周辺建物の建て込みを影響した換気回路網モデル 換気回路網の従来的アプローチでは,室間・屋内外温度差や風圧力に起因する換気駆動力は,数分~1時間程度の時間スケールで,専らその平均値だけで評価されてきた.一方,IAQ或いは省エネルギーへの関心の高まり,安心安全な生活環境と云った社会的背景を考えると,都−170−発表番号 82〔中間発表〕

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