2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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ナノスペースでの粘性流動を利用した誘電体-金属機能界面の形成と そのプラズモニクス特性 東京工業大学物質理工学院准教授 松下祥子 1. 研究の目的と背景 特徴的な光学特性を持つ金属ナノ構造体は、新しい分析技術・光学技術を産む可能性が高く、国力向上のためにも急務に取り組むべき課題の一つである。このような構造体作製のためには、金属をナノオーダーで加工する必要がある。特に近年の研究では、誘電体と金属とをカップリングすることにより各種光学特性を増強できるという報告もあり、金属単一ではなく金属-誘電体ナノユニットにも注目が集まっている。 微細加工の手段としてはトップダウン手法とボトムアップ手法が挙げられる。トップダウン手法では望んだ形状のものをナノオーダーで作製することができるが、大量作製には適さず、かつ数nmレベルで加工できる装置は極めて高額という問題点がある。他方ボトムアップ手法は大量作製に適し実践的で、キューブ、星、枝分かれ構造といったより複雑な形状をもつ粒子の合成が報告され始めたが、例えば突起部の配置や長さを緻密に制御することは困難であり(図2)、上述した光学特性を検討・応用するために十分な形状制御へは、残念ながら至っていない。 このような情勢の中、申請者は、形状の揃ったナノサイズの金属ユニットが規則的に配列した構造体を、大量作製に適したボトムアップ手法で作製する方法を提案した。 2. 研究内容(実験、結果と考察) 突起構造を持つユニット作製本研究は、形状の揃ったナノサイズの金属ユニットが規則的に配列した構造体を、大量作製に適したボトムアップ手法で作製する方法の確立を目的としている。そのため、まず、突起など複雑な構造を持つ誘電体ナノ構造の作製を行った。 この突起構造の作製4のために、球状微粒子表面上の熱融着を利用した。球状微粒子を層状に配列させ(2Dコロイド結晶)て熱をかけると、微粒子表面で粘性流動が生じる。この粘性流動は焼結条件によって大きく異なる。たとえば、温度を1段階に設定する一段階焼結と、温度を2段階に分けて上昇させる二段階焼結では、粘性流動によって微粒子間に形成するブリッジの形状・密度が異なる。この焼結後、反応性イオンエッチングもしくはケミカルエッチングによってブリッジをエッチングしてやることにより、微粒子表面に突起構造などの複雑な構造を持たせることができる。2 このナノスペース・ナノ界面での粘性流動の把握が、本研究のブレークスルーの根幹である。まず1段階焼結での昇温速度依存を電気炉ならびに電子顕微鏡(SEM)観察で行った。しかしこの段階で、「5 mm×10 mmの石英基板上に並んだ2次元コロイド結晶が、均一に焼結されていない」という問題が生じた。ナノスペース内での粘性流動に対する知見を得るためには、この再現性の向上が必須であった。この問題は、角匣鉢を使用して焼結することによって解決した。熱の伝わり方には伝導、対流、放射の3種類がある。角匣鉢を使用することによって、電気炉の発熱体からの放射を遮断することができたため、基板上の温度分布がより一様に近づいた。その後、二段階焼結を各種条件で行い、SEM像を解析することで、ナノスペース内での粘性流動に対する知見を得た。作製した構造体をFig.1に示す。全ての粒子間がロッドで結ばれた対称性の高い構造体を作製することができた。この構造体にケミカルエッチングを施すことで、微粒子表面に突起構造などの複雑な構造を再現性良く持たせることに成功した。 作製した表面への均一金属コートならびにプラズモニクス特性測定当初の計画書では、この均一金属コートを「金属イオン吸着後の無電解めっき」で行う予定であった。しかし作製した構造体により発現するプラズモニクス特性測定のためには、均一金属コートを行うよりも先に図1均一焼結後、ケミカルエッチングを施した構造体2 −8−発表番号 4〔中間発表〕

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