2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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り耐震補強を施したため,袖壁増設後に接合部損傷の進行が効果的に抑制された.その結果,接合部の破壊よりも梁端部の曲げ降伏が先行し,架構全体として変形性能に優れた耐震性能を示すことを確認した.また,袖壁増設により架構全体の耐力が大幅に向上した. 図4 実験結果(上:無補強試験体,下:補強試験体) 2016年度は2015年度に得られた実験結果,とくに補強後の試験体について,わが国の耐震診断法などを適用して耐震性能評価を行った.既往の性能評価手法の本研究対象への適用性を検証することで,将来の補強設計のための基礎資料を収集することを意図した.補強試験体は梁危険断面位置と柱脚部に曲げヒンジを形成したことから,梁曲げ耐力と袖壁付き柱曲げ耐力の計算結果に基づいて評価した.その結果,補強試験体の水平耐力は正側が25.7kN,負側が-16.5kNと評価され,計算値は実験値とよく整合することを確認した. 3. 研究成果 本研究により下記の成果が得られた.1) 研究対象建物を模擬した無補強試験体J3では接合部破壊が先行し,2階部分が層降伏する脆性的な破壊性状を示した.2) 無補強試験体の最大耐力まで損傷させた(参考文献4)の損傷度Ⅲまで損傷させた)後にRC袖壁により補強を施した試験体J3A-WIでは耐力が大きく向上し,梁降伏機構を形成した.また,試験体J3で見られた2階の層降伏を防止できた.3) 補強試験体の水平耐力は梁曲げ耐力と袖壁付き柱曲げ耐力の計算に基づき評価できた. 4. 今後の展望 研究代表者は2016年度より,バングラデシュのRC建物の耐震化を目的とする新規の研究課題に着手している.これまでの研究ではせん断補強筋のない接合部を有するフィリピンのRC建物を研究対象としたが,バングラデシュでは梁主筋が柱梁接合部に定着されていない構造詳細が採用される場合があり,より脆弱な構造特性を示す可能性が高い(図5).本研究が提案しているRC袖壁による耐震補強法をより脆弱なバングラデシュの建物に対して適用する方法について検討し,本研究で開発する耐震技術の一般化,世界的な普及に向けた取り組みを進めたい. 図5 梁主筋が定着されていない接合部の破壊事例 5. 参考文献 1) 真田靖士:災害対策先進国としての国際貢献―発展途上国の建築災害調査を通して,建築雑誌,Vol.131,No.1681,pp.36-37,2016年3月 2) 西川孝夫,中埜良昭,アイダン・オメール,土屋芳弘,真田靖士:パキスタン地震調査報告,建築雑誌,Vol.121,No.1545,pp.58-67,2006年3月 3) 李曰兵,真田靖士:袖壁増設による既存RCト形柱-梁接合部の耐震補強,日本建築学会構造系論文集,Vol.79,No.705,pp.1657-1665,2014年11月 4) 日本建築防災協会:再使用の可能性を判定し,復旧するための震災建築物の被災度区分判定基準および復旧技術指針,2016年3月 6. 連絡先 〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2-1 大阪大学大学院 工学研究科 地球総合工学専攻 Email: sanada@arch.eng.osaka-u.ac.jp −169−

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