2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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り12行政区が存続可能となった.現状の世帯構成は高齢者のみの少人数世帯が全体の36%を占めており,「BAUシナリオ」および「町内移住シナリオ」では2050年までこの傾向が変わらず改善が見られない.しかしながら,「産業活性化シナリオ」では,Uターン率向上による三世代世帯等の多人数世帯の増加や,Iターンによる若年の少人数世帯の増加が顕著である. 5. 地域再設計によるCO2削減効果に関する検討 家庭内エネルギー消費量に関しては,下田ら3)による家庭用エネルギーエンドユースモデルを用いて住宅類型・世帯構成別のボトムアップシミュレーションを行う.住宅類型については伝統的農家住宅(3区分)と一般住宅(6区分)の床面積9区分,世帯構成については19区分とし,断熱性能や空調・給湯熱源なども含めて全5,130類型で月・用途・エネルギー種別のエネルギー消費量を求めた.なお,建物寿命ならびに町内移住,Iターン移住による住宅の建替えや新築を考慮し,更新時には次世代基準の一般住宅とした.建替えのタイミングは町内住宅の平均寿命から滅失曲線を推計し,確率密度を考慮した.町全体の家庭内エネルギー消費量の推計結果に関して.「町内移住シナリオ」では移住世帯の全体に占める割合が小さいため年間エネルギー消費量への影響は僅かだが,「産業活性化シナリオ」ではUターンにより多人数世帯が増加することや,Iターン向けの新築が増加することで一人当たりエネルギー消費量が24%削減された(2050年). 日常の移動エネルギー消費量に関しては,筆者らによる日高川町内のPT調査結果(有効回答数447件)を基にして,世帯人数別の平均自動車保有台数および居住地区別の1人あたり平均走行距離を算出した.保有台数の対象は普通車および軽自動車(軽トラックを含む)とした.「産業活性化シナリオ」については,地域活性に伴う物販や医療等の都市サービス機能の充実を考慮し,川辺地区は矢田,中津地区は船津,美山地区は川上を拠点とし,日常生活の行動範囲が地区内にとどまると仮定した.なお,エネルギー消費量の算出には自動車燃料消費量統計年報による走行1kmあたりの燃料消費量0.086[ℓ/km]を用いた. 上述のエネルギー消費推計結果を基にして,日高川町全体の家庭内および日常移動におけるCO2排出量を推計した結果を図2に示す.家庭内より日常移動におけるCO2排出量が大きな割合を占めており,2015年時点では約2.5倍であった.1人当たりCO2排出量は「産業活性化シナリオ」において大幅な削減効果があり,2050年には約60%の削減,集約により家庭内に対する日常移 図1 集約状況(上:町内移住,下:産業活性化) 図2 CO2排出量の推計結果 動の割合が1.3倍にまで低下した.「町内移住シナリオ」についてはやや減少傾向にあるものの,「BAUシナリオ」と大差なく,2050年までほぼ横ばいであった. 6. 今後の展開 筆者らが先行的に評価してきた農山村地域に賦存する自然資源を有効活用することで,さらなるCO2削減効果が期待されることから,本研究で得られた成果とリンクさせることで需要供給の両面から農山村地域のエネルギーシステムの在り方を検討することが課題として挙げられる.また,本研究では将来の経済状況を外生変数として与えるにとどまったが,各シナリオで想定される経済活動を内生変数として予測評価するとともに,各シナリオに関する費用便益分析からシナリオに関連する政策の妥当性について評価を行うことが今後の大きな課題として位置づけられる. 7. 参考文献 1) 小暮ほか:農山村地域における生活実態の把握とエネルギー消費予測モデル世帯の設計,日本建築学会環境系論文集,No.718,2015. 2) 鳴海:木質資源動態予測モデルの構築ならびに資源活用可能性に関する評価日本建築学会環境系論文集,No.737,印刷中,2017. 3) 下田ほか:家庭用エネルギーエンドユースモデルを用いた我が国民生家庭部門の温室効果ガス削減ポテンシャル予測,Journal of Japan Society of Energy and Resources,Vol.30 No.3,2009.−165−

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