2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
174/223

農山村の経済復興ならびに低炭素化を視野に入れた地域再設計の在り方に関する検討 横浜国立大学大学院環境情報研究院 准教授 鳴海 大典 1. 研究の目的と背景 我が国の農山村地域では過疎高齢化に伴う地域衰退が深刻化しており,地域・生活の質の維持を可能とする地域再設計を喫緊に検討する必要がある.この点に関して,筆者は農山村における地域再設計を視野に入れた諸施策のQOL向上や低炭素化の効果を評価するために,生活状況やエネルギー消費の実態調査,森林資源の活用可能性などに関する評価を行なってきた1)2).本研究はこれらに引き続き,居住環境評価に関するアンケート調査を行った上で,農山村における地域再設計シナリオの構築,さらには地域再設計がエネルギー消費量やCO2排出量に与える影響について評価を試みた.過疎高齢化を始めとして,集落散在や伝統的農家住宅の非効率性,都市サービス機能の撤退など,多岐にわたる農山村地域の課題解決を視野に入れた将来シナリオの提案を行った. 2. 研究対象地域 調査対象地域は和歌山県日高圏の一部である日高川町とした.日高川町は2005年に川辺町(川辺地区),中津村(中津地区),美山村(美山地区)が合併したものであり,総面積は332km2と県内3番目の面積を有する.ただし,可住地面積は42km2と13%に過ぎず,約9割を山林が占める典型的な山間地域である.総人口は約10,200人,世帯数は約4,150世帯であり,昭和30年から人口の社会移動が急速に進み,近年では自然減が加速しつつある. 3. 農山村地域の居住環境評価に関するアンケート調査 住民基本台帳より無作為抽出した1,003世帯を対象に郵送アンケート調査を実施し,世帯属性,他出子の動向,今後の居住意向,居住環境(47項目)への満足度・重要度に関して現状を調査した.調査期間は 2015年 10月であり,有効回答率は27%であった.なお,居住環境を評価するにあたり,新旧の小学校区を基に町域を10地区(矢田,丹生,早蘇,山野,船津,大星,子十浦,川上,愛徳,寒川)に区分した. 居住環境に関する満足度について,満足度の低い項目には医療・介護や日常生活の利便性,仕事や家計等が挙げられる一方で,高い項目には家や家の周りの環境や地元に対する愛着,近所付き合い等が挙げられた.要改善項目を優先順で示すと,医療施設や店舗などの都市サービス機能の充実が中心であった. 4. 農山村地域における地域再設計シナリオの作成 日高川町の目指すべき社会像を前項のアンケート調査結果や地域サービス施設等の変遷に関する役場職員を対象とするヒアリング調査から得られた地域コンテクストに配慮した上で2050年を目途として設計する.本研究ではある程度の集約化を図りつつ,歴史文化資源を存続させることを目的とする将来シナリオを設計した.以下にシナリオの概要を記す.なお,2050年の人口は2015年の日高川町における世帯・性・年齢別の人口データからコーホート要因法により推計した. 「BAUシナリオ」:全町民が現在の居住地に住み続けることを想定した現状推移型のシナリオである.人口は自然減および社会移動により減少を続けるとともに,世帯が0にならない限り,当該行政区は存続する. 「町内移住シナリオ」:住民意向や地域コンテクストに配慮した上で,可能な限り居住地の集約化を目指すシナリオである.人口減少の抑制対策は行わないために「BAUシナリオ」と同様に人口減少を続けるが,集約化により孤立地域を減らすことを意図している. 「産業活性化シナリオ」:本町の主産業である農業および林業を活性化させることで,町の活性化と集約化を両立させるシナリオである.活性化について,川辺地区,中津地区の農業従事者および美山地区の林業従事者を増加させることを想定する.増加数については,農林業の過去最大生産量と現在の生産効率に基づいて,林業を876人,農業を2740人とし,これを2050年までの人口増加目標として位置づける. 居住地の集約に関する検討結果を図1に示す.「BAU シナリオ」(図は省略)では6行政区が世帯数0となり消滅し,37行政区が2050年までに10世帯未満となるため,存続が危ぶまれる.「町内移住シナリオ」は世帯数が少なく高齢化率の高い19の大字(行政区分で46行政区)が集約される結果となり,中心から山間部にかけて集約行政区が増加している.「産業活性化シナリオ」は11の大字(行政区分で34行政区)が集約される結果となり,「町内移住シナリオ」と比較すると人口増によ−164−発表番号 79〔中間発表〕

元のページ  ../index.html#174

このブックを見る