2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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ドネシア人協力者のサポートを受けて質問項目を設定した。配慮については,信頼と同様に配慮意識という精神的なものと配慮行動という物理的なものの2つに分けて計測した。配慮意識は,既往研究を参考に,公共場面での行動意識尺度を用いて質問項目を設定した。配慮行動は,配慮意識の尺度に基づき独自に行動を設定し,計測した。地域愛着については,コミュニティを育むための地域との繋がりを計測するために設定し,既往研究を参考にして設定した愛着尺度により計測した。また,ゴトン・ロヨンと呼ばれる相互扶助活動,アリサンと呼ばれる婦人会のような活動,宗教に関する活動などの地域コミュニティ活動への参加頻度も調査した。これらに加えて,個人属性として名前,年齢,性別,居住歴,世帯人数と子供の有無,職業と外部での就労頻度についても質問した。 図1調査対象団地の平面図と概況写真 図2分析結果の一例(左:廊下利用時間と愛着の関係,右:廊下でのコミュニケーション時間と愛着の関係) 得られたデータを用いて廊下利用とSCの関係について分析を行った。廊下利用時間とSC の間に相関関係は見られなかったが,廊下利用時の隣人とのコミュニケーション時間とSC の間には正の相関関係がみられた。このことから,SCを向上させるためには廊下での隣人との接触時間を増やすことが重要であるといえる。また,実際に見られたコミュニケーションの多くは廊下の椅子などに滞在している住民と,トイレの利用などで廊下を移動している住民による偶発的なものが多かったことから,人が交わる廊下の中心部や共用部の近くに滞在可能な物を表出できるような空間づくりが望ましいといえる。また性別に着目して分析を行なった結果,男性はSC の3 要素がそれぞれ関係し合っていたため,廊下利用時の隣人とのコミュニケーション時間を増加させることで全てのSC 要素向上が期待されることが示された。一方で,女性はSC の各要素間に相関関係はみられず,SC を向上させるためにはそれぞれの要素を個別に向上させる必要があることが示された。また,女性の配慮と廊下利用時間の間に相関関係が見られたことから,配慮を向上させるためには廊下利用時間自体を増加させることが有効であると考えられる。加えて,男女別に廊下利用時の行為を分析したところ,女性は男性に比べて家事や育児などでの廊下利用が多いことから,廊下での作業に適した設えを滞在可能な家具などに連続させることが重要であると考えられる。信頼と地域愛着に関しては,参加している地域コミュニティの種類に着目して分析を行なった結果,複数の活動に参加している住民は,信頼と地域愛着の点数が高く,また,廊下利用時間の平均時間も長かった。このことから,複数の地域コミュニティ活動への参加を促すことで信頼と地域愛着の向上が期待できるといえる。加えて,廊下を日常的活動やコミュニティ活動時に利用しやすいデザインにすることでも信頼と地域愛着の増加に効果的であると考えられる。 3. 今後の展開 筆者らは現在,ジャカルタ西部の住宅団地建設プロジェクトに現地の開発事業者と共同で取り組んでおり,本研究で得られた知見から,共有空間の積極的利用を促進し,社会的な意味での快適な都市生活を実現する新たな住まい方の提案を行っている。2017年6月時点でデザインガイドラインの提示を完了し,設計プロセスを進めている状況にある。 4. 参考文献 村上暁信,栗原伸治,原科幸爾:インドネシア・ジャカルタの都市内カンポンにおける放射環境と住民の屋外空間利用に関する研究.日本都市計画学会都市計画論文集,49 (1),65-70,2014 5. 連絡先 〒305-8573 茨城県つくば市天王台1-1-1 筑波大学システム情報系/029-853-5168/murakami@sk.tsukuba.ac.jp −163−

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