2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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低環境負荷型住まい方の実践とソーシャル・キャピタル向上の相乗効果を誘発する都市デザイン - インドネシア・ジャカルタの中層住宅における建築空間・住民行動・コミュニティの関係分析 筑波大学システム情報系 教授 村上 暁信 1. 研究の目的と背景 インドネシアの首都ジャカルタでは,これからも人口増加が続くことが予測される。地球環境問題が深刻化する中で,このような発展途上国の大都市での住まい方,エネルギーの使い方は他の地域にとっても大きな影響を与える。他方で,これからの都市空間を扱う際に考慮すべき課題としては,「環境負荷の低減」だけでなく,「社会的な意味での良好な都市生活の実現」が掲げられている。これらは別の対応としてそれぞれに取り組まれることが多いが,環境保全型の都市空間整備や住まい方の実践が,快適で良好な都市生活の向上に繋がることがより望ましい。すなわち,両者の間での相乗効果(シナジー)の発現が望まれる。このような問題意識のもとで,筆者らはこれまでジャカルタにおける市街地空間の環境評価と屋外空間利用の関係について研究を行ってきた。そこでは,屋外の熱的快適性の高い場所において滞留など特に積極的な利用が図られること,より多く屋外空間を利用する住民ほどコミュニティ活動などへの参加頻度が高くなることが明らかになった(村上ら,2014)。しかし調査の過程では,エアコンを導入している家庭ほど屋外空間を利用する頻度が低くなり,コミュニティ活動への参加頻度も少なくなることが示され,また環境計測においては外気温(屋外の気温)がエアコンの設定温度よりも低い場合でもエアコンを使用し続ける傾向があることが観察された。このことから,これまでの知見をさらに進めて今後の都市空間整備へ応用するためには,生活上の各種行動を詳細に追跡し,低負荷型の生活空間形成・利用と,社会的な意味での良好な都市生活の関係を考察し,両者が正の変化を誘発し合うための空間整備手法を議論する必要があるといえる。そこで本研究ではインドネシア・ジャカルタの中層住宅を対象にして,「環境負荷の低減」と「社会的な意味での都市生活の向上」を実現する都市空間整備の手法を提案するために, 住民の屋外生活行動を把握するとともに,ソーシャル・キャピタル(以下SC)を評価し,結果を総合することで,シナジーを発揮する具体の都市空間整備手法を考察することを目的とした。 2. 研究内容 ジャカルタ中心部から北東約4km に立地する中層集合住宅Rusun Dakota5を対象地とした。対象団地は5 階建RC 造の中廊下型中層集合住宅である。幅約2.5mの共用廊下を有し,廊下の両端には共用キッチンと共用カマルマンディ(トイレ・シャワー)が設置されている。1 フロアに8部屋が配置されており,2016年9月時点で43 世帯が入居していた。住民は居室や共用部を使いやすいように各自改良しており,廊下に椅子やテーブル・食器棚などの私物を出し,そこで食事や洗濯などの生活行為を行なったり家族や知人と団欒したりしている様子が確認された。 本研究では,任意の間隔で画像データを連続記録できるインターバルカメラ(以下IC)によって各フロアの廊下を撮影・記録することで廊下利用の把握を行った。調査は2016年9月25日(日)16:09〜28日(水)23:59に行い,インターバル撮影の記録間隔は30秒に設定した。取得した全9582枚の画像データから1枚1枚に写る住民を特定し,調査対象者についてのみ,その枚数から利用時間を算出した。また1フロアのみ,ICではなくビデオカメラ(VC)を設置し,動画データを記録した。さらにIC・VCのデータを利用し,廊下利用の重なりを分析した。ICの画像データでは,複数の世帯代表者が廊下を利用しているコマ数から,利用の重なり時間を算出した。またVCデータでは,動画に写る住民を1秒ごとに特定し,調査対象者の利用時間と利用の種類を明らかにした。利用の種類は1人あるいは家族のみとの利用・他世帯代表者との重なった利用(利用の重なり)・他世帯住民とのコミュニケーションを取る利用の3種類に分類して集計した。 SCについては信頼・配慮・地域愛着の3要素から定義し,アンケート調査を実施した。信頼については,信頼意識という精神的なものと,信頼意識に基づくと思われる援助行動という物理的なものの2つに分けて,イン −162−発表番号 78〔中間発表〕

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