2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
170/223

近代に形成された保養地型温泉街の空間設計に関する研究 -富山県黒部市の宇奈月温泉を事例として- 新潟大学工学部工学科助教 松井大輔 1. 研究の目的と背景 国内旅行がマスツーリズムから個人型観光に形態を変えてきた昨今、多くの温泉街はこの変化に対応しきれずに疲弊している。各地で温泉旅館が廃業するなど宿泊施設の低・未利用化が進んでおり、このような傾向は地方部の温泉街において顕著である。一方、温泉街は日本特有の文化的景観を有し、インバウンド観光客を主な対象とした観光的な潜在価値は高いと考えられる。政府の観光立国政策でも歴史や伝統などの地域特性を活かし、観光の質を高めた観光地域形成が重要視されている。今後、観光立国政策を進めていくには各温泉街の歴史的な文脈を明らかにし、現在は負の遺産と化している既存ストックを地域資源として再評価し、温泉街の再生に活かすことが重要だと考えられる。 本研究は近代になって新たに開発が行われ、企業の保養地とリゾート観光地という二つの異なる歴史の中で発展してきた富山県黒部市宇奈月温泉を対象に①温泉街の形成過程、②災害や高度経済成長期の乱開発を経た町並み景観の変容、③周辺の自然環境と温泉街の関係性を明らかにする。これをもって、近代に新規開発された温泉街の歴史的文脈を整理し、今後の景観計画や歴史を活かした観光計画の立案に資する基礎的な情報を得ることとしたい。 調査は黒部市図書館宇奈月館・歴史民俗資料館や地元住民が所蔵する古地図・古写真などの資料調査、地元住民や旅館経営者、電源開発に関わった企業、宇奈月温泉開発を先導した山田胖氏の親族などに対する歴史や景観変容に関するヒアリングを行った。 2. 研究内容 2-1.温泉街の形成過程について(図1) 近代における宇奈月温泉街の形成史を概観すると、電源開発関連の子会社である黒部鉄道株式会社によって愛本温泉で計画・実施された温泉街の設計思想「温図1宇奈月温泉街における土地利用と街路の変遷 −160−発表番号 77 〔中間発表〕

元のページ  ../index.html#170

このブックを見る