2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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古い木造住宅の倒壊防止を目的とした柱脚滑り機構による革新的耐震改修法 東京工業大学環境・社会理工学院建築学系 助教 山崎 義弘 1. 研究の目的と背景 我が国ではこれまで数々の大地震で多くの木造住宅が倒壊に見舞われたが、その崩壊形式はほとんどが1階の層崩壊である。1階は建築計画上、壁が少なくなりがちであり、従来型の耐震補強では1階の壁を増やす必要があるが、古い木造住宅では健全な基礎や土台がないことが多く、壁柱脚の引抜反力がとれないため、基礎の増設まで行おうとするとコスト面で居住者に負担を強いることになる。 一方で、1階柱脚や土台が基礎上で滑り、一種の免震構造のようになったことで倒壊を免れたと考えられる木造住宅が、過去の地震被害調査で報告されている。一般的な木造住宅は、南面に大きく開口をとり耐震要素が少なく、逆に北面に耐震要素が集中しがちなため、これにより地震力に対する建物平面内の反力分布が偏り、地震時には建物が一体的ではなく、部分的な滑りが生じやすいと考えられる。 本研究では、図1のように部分的に基礎上を滑らせることを許容した建物の地震時挙動の評価、ならびにその性能向上のための方法論を提示する。 2. 研究内容 図2のように耐震要素が建物外周部に配置された構造モデルを考慮する。南面に相当する剛性が低い側を柔側(Flexible side), 北面に相当する剛性が高い側を剛側(Stiff side)とする。柔側構面と剛側構面に平行な地震動成分に対する応答を対象とする。既存状態での柔側、剛側、および直交構面の剛性を、それぞれαK, K, βK(0<α<1, 0<β)とし、補強として剛側構面にΔK, 直交構面にΔK' の付加剛性を与える。柔側・剛側ともにW/2(W:総重量)の重量を鉛直支持しているとし、C0を中地震に対する必要ベースシア係数とする。剛側のせん断力がμW/2(μ:摩擦係数)に達したら滑りが生じ、せん断力が頭打ちになる。 図2に示す建物モデルで最も大きな変形が生じるのは柔側構面であり、この部分の変形を抑制することが耐震改修における目標となる。しかし、柔側構面の開口を塞いでまで補強を施すことは、建築としての機能を著しく損なうため、柔側構面への補強を可能な限り行った後、さらに剛側構面と直交構面への補強により、建物全体の耐震性能の改善につなげることを考える。ただし、剛側構面は耐力壁脚部の柱脚滑りを発生させることで、加速度の上昇を抑えながら安定した消費エネルギーを得るとともに、偏心の改善も狙う。以下では、1) 水平構面が剛床とみなせる場合、2) 水平構面が柔床の場合、に分類し耐震性能向上のための方法論を議論する。 図1想定する建物と補強方法 図2考慮する構造モデルと剛性バランス 1) 水平構面が剛床とみなせる場合 水平構面が剛床とみなせるかどうかの判別は、研究代表者が文献1で提案した指標、ωγ/ωθ>1.5により行う。以下ではα, βおよびLy/Lxを与条件とし、ΔK = ∞という特殊なケースについて考える。柔側構面と剛側構面の反力をそれぞれF1, F2としたとき、F2/F1が1より大きくなる条件は次式となる。 11232yxLL (1) α/βが小、すなわち直交壁が多い場合や、Ly/Lxが小の場合において、F2/F1 > 1になりやすいことが分かる。正方形の平面(Ly/Lx = 1)ではα/β = 0.75が臨界値であり、実在の木造住宅ではF2/F1 > 1, F2/F1 < 1のどちらも生じ得ることがうかがえる。なお、式(1)が満たされる場合には、剛側構面への剛性付加によって柔側構面の変位抑制にも繋がることを確認している。 2) 水平構面が柔床の場合 水平構面を剛床とみなせない場合は、研究代表者らが文献2顔写真 25mm× 30mm程度 (a) 補強前 (b) 補強後 αK Lx Ly βK + ΔK' K + ΔK θx y Flexible side (Frame1) Stiff side (Frame2) K + ΔKKC0W/2μW/21/120αKαC0W/21/120βK + ΔK' North sideInputFixedSouth side(Opening)Strengthened component Sliding Input −158−発表番号 76 〔中間発表〕

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