2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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既存木造学校校舎の耐震性能評価法の構築 香川大学工学部 准教授 宮本 慎宏 1. 研究の目的と背景 2階建の低層の木造学校校舎は、1950年の建築基準法制定以降も建築可能であり、数少ない大規模木造建物として木造技術史の中で貴重な建物である。このような木造学校校舎を地震などの自然災害から守り、次世代に継承いていくことは重要な課題である。愛媛県八幡浜市には1950~1960年代に立てられた木造学校校舎が十数棟現存しており1)、その安全性確保や保存活用のために、木造学校校舎の耐震性能評価法や耐震補強法を構築することが求められている。本研究では、木造学校校舎の耐震性能を把握し、建物の文化財的価値を考慮した効果的な耐震補強法の構築を目的とする。既往の研究2)では、木造学校校舎の主要な耐震要素である方づえ架構、大断面の筋かい架構の実大試験体を用いた静的水平載荷実験を行い、実験結果から架構の荷重変形関係や破壊モードを把握した。本研究では、まず愛媛県八幡浜市に現存する川之内小学校の現地調査を行い、建物全体の構造的特徴や振動特性を把握する。次に、木造学校校舎の主要な耐震要素である方づえ、筋かいを含む架構のフレームモデルを構築し、既往の実験結果との比較からその妥当性を検討する。 2. 研究内容 2.1 現地調査 川之内小学校校舎(図1)は1950年竣工の在来軸組構法木造2階建、屋根は寄棟の粘土瓦葺、外壁は堅羽目、平面計画は片廊下式、主な耐震要素は方づえと筋かいである。桁行方向はK型筋かい、梁間方向はたすき掛け筋かいと片筋かいである。方づえは各室と廊下の梁間方向に取り付けられている。方づえ・筋かいと柱・梁の接合部はM12ボルトで接合されている。 川之内小学校校舎の振動特性に関する基礎データを得ることを目的として常時微動計測を行った。設置位置や方向を変えて計4パターンの計測を行った。計測時間は全てのケースで250秒、サンプリング間隔は200Hzとした。センサー1台を地盤面、その他のセンサーを2F床レベルと小屋梁レベルにそれぞれ設置した。 図2に梁間方向における地盤面に対する建物内の各計測点のフーリエスペクトル比の一例を示す。図2から梁間方向には複数のピークがあることが分かる。建物の1次固有振動数は、梁間方向3.27Hz、桁行方向2.20Hzと推定され、梁間方向の方が桁行方向より剛性が大きいと考えられる。各ピーク振動数における梁間方向の振動モードの一例を図3に示す。計測結果より3.27Hzの時はX11、X20、X25の構面、3.66Hzの時はX15の構面、4.88Hzの時は西側の外壁X1と東側の外壁X25の両端の構面、5.51Hzの時は建物中央のX11とX15の構面の振幅がそれぞれ大きい。以上より、梁間方向は構面ごとにピーク振動数が異なり、各構面が独立して振動している様子がわかる。これは建物の水平構面が柔らかいこと、建物の平面形状が横長であることが要因として考えられる。 2.2 シミュレーション解析 既往の実大実験結果2)を基に、木造学校校舎の主要な耐震要素である方づえ、筋かいを含む架構のフレームモデルを構築し、シミュレーション解析を行った。図4に示すように、実大試験体は柱と梁からなるフレームのみの試験体A、試験体Aに筋かいを片側に入れた試験体B、試験体Aに方づえを2本入れた試験体Cの計3体である。解析モデルは鉛直方向Z軸、水平方向X軸、Y軸周りのRY軸の3自由度とした2次元モデルであ0246810121405101520Fourier spectral ratioFrequency[Hz]ch2/ch1ch3/ch1ch5/ch1ch6/ch1ch7/ch1ch8/ch13.27Hz4.88Hz図1川之内小学校 図2計測結果の一例図3振動モードの一例(梁間方向3.27Hz)−156−発表番号 75

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