2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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多核種ナノ磁気共鳴イメージング法の開発 神戸大学大学院理学研究科 准教授 大道 英二 1. 研究の目的と背景 本研究の目的は、マイクロカンチレバーを用いた超高感度な磁気共鳴法を開発し、試料走査機構との組み合わせによりナノスケールでの磁気共鳴イメージングを可能にすることである。さらに、試料中の核種による磁気回転比の違いを利用し、核種ごとのイメージングを目指すものである。例えば、19F核の場合、生体中にはほとんど存在しないため、高い空間コントラストが期待される。また、生体を構成する重要な元素である炭素についてもイメージング技術の確立が望まれているが、13C核は自然存在比が1%程度であることため感度的に難しいとされてきた。本研究では、革新的な測定技術の開発や検出器であるカンチレバーの高感度化により、これらの問題を解決しようとするものである。 2. 研究内容 (実験、結果と考察) これまでに行った内容として、以下の4点が挙げられる。 ・カンチレバー用いた高感度磁気共鳴法の開発 ・カンチレバー磁気共鳴法の生体関連物質への応用 ・ナノ磁気共鳴イメージング装置の試作 ・超高感度カンチレバーの自作 以下、それぞれについて説明を行う。 (1)カンチレバーを用いた高感度磁気共鳴法の開発。カンチレバー上に100 ng程度の微小な試料を載せ、テラヘルツ光を照射しながら磁場掃引を行うことで電子スピン共鳴(ESR)測定を行った。これまでに1 THzを超える周波数領域におけるESR信号の検出に成功しており、この値は世界最高周波数にあたる[1]。また、カンチレバーの変位を高感度に検出するため、ファイバー光学系を用いた測定系を構築し、MgOに含まれる0.2 %濃度Mn2+不純物の超微細構造分裂の観測にも成功している[2](図1)。変位検出感度としては0.1 pm/Hz1/2に達しており、超低バネ定数のカンチレバーの用意ができれば、核磁気共鳴(NMR)の検出も十分可能な感度を達成した。 (2)カンチレバー磁気共鳴法の生体関連物質への応用。金属タンパク質への応用を念頭に、カンチレバーによる磁気共鳴手法を生体関連物質へ適用した。測定対象 図2 波長フィードバックによる高ダイナミックレンジ測定のブロックダイアグラム としてヘミン分子と呼ばれる分子に着目した。この分子はヘムタンパク質の活性中心に当たる分子であり、鉄ポルフィリン錯体の一種である。 波長フィードバックの手法を用いることで測定のダイナミックレンジ化に成功した[3](図2)。その結果、100 ng程度の超微量ヘミン試料に対し、0.5 THzまでの広い周波数磁場範囲でESR信号の検出に成功した(図3)。得られた信号から、ヘミンの電子状態を反映したゼロ磁場分裂定数の詳細な決定に成功した[4-6]。 (3)ナノ磁気共鳴イメージング装置の試作。イメージング装置では微小な磁気チップをつけたカンチレバーを試料表面で走査する必要がある。そのため、低温、強磁場中でも動作するピエゾ駆動3次元ステージの構築を行った。Stick-and-slip機構により、ナノメートルの移動 M試料cantilevergradient MagnetF∇BEMwaves1.71.751.82.82.842.88Magnetic field (T)Vsignal (arb. units)f=80 GHzT=4.2 KVsignal (arb. units)Magnetic field (T)MgO:Mn2+(0.2% conc.)f=50 GHzT=4.2 K 図1 カンチレバーを用いた磁気共鳴法の測定原理(左)とMgO:Mn2+の高周波ESR信号(右) −152−発表番号 74 〔中間発表〕

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