2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
161/223

2. 原子層物質をビルディングブロックとした原子層人工複合ヘテロ構造の作製とその光機能性 異種の遷移金属ダイカルコゲナイドを組み合わせ、原子層からなる人工ヘテロ構造作製の研究を進めた。原子層物質からなる人工ヘテロ構造のモデルシステムとして、単層二セレン化モリブデン(MoSe2)と単層二硫化モリブデン(MoS2)からなるヘテロ構造を作製しその発光特性を調べた。図2に示すように、室温から極低温の広い範囲で発光スペクトルを測定した。孤立した単層MoSe2、単層MoS2の発光スペクトルには、励起子、荷電励起子(トリオン)等の発光ピークが観測されている。これに対して、それらのヘテロ構造では、それぞれ単層MoSe2(X)、単層MoS2(Y)に起因するピークに加え、最も低いエネルギー側に新たなピーク(I)が観測された。理論計算によるバンドアラインメントによれば、単層MoSe2、単層MoS2からなるヘテロ構造では、それぞれの伝導帯と荷電子帯がずれたType IIと呼ばれるバンド構造を取る。そのため、低温で観測される発光ピークは、電子がMoSe2層、ホールがMoS2層に空間的に別れ、ゆるやかに束縛したType IIの励起子(つまり層間励起子)のピークとしてアサインされる(図2右下の模式図)。さらに、温度を増加させるとこの層間励起子が熱的に乖離し、通常の同一層内の励起子発光に移り変わる様子が観測されている(図2左下の模式図)。ここから見積もられる、相間励起子の束縛エネルギーは、約90 meVと化合物半導体のヘテロ構造における値と比べ格段に大きく、極限二次元物質に閉じ込められた量子閉じ込めによるものと考えられる。 3. 今後の展開 後半期に向けて、これまでの研究で蓄積してきた単層遷移金属ダイカルコゲナイドのデバイス作製技術やバレースピン分極の物理の理解を通して、この物質系の特徴であるバレースピン分極とその制御、それらを生かしたデバイスなどの研究を推し進め、それを通して量子グリーンフォトニクスという新しい研究分野を切り開く事を目指す。 4. 参考文献 1) S. Mouri, Y. Miyauchi, and K. Matsuda, Nano Lett. 13, 5944 (2013). 2) S. Mouri, Y. Miyauchi, M. Toh, W. Zhao, G. Eda, and K. Matsuda, Phys. Rev. B 90, 155449 (2014). 3) D. Kozawa, R. Kumar, A. Carvalho, K. K. Amara, W. Zhao, S. Wang, M. Toh, R. M. Ribeiro, A. H. Castro Neto, K. Matsuda, and G. Eda, Nat. Commun. 5, 4543 (2014). 4) Y. Tsuboi, F. Wang, D. Kozawa, K. Funahashi, S. Mouri, Y. Miyauchi, T. Takenobu, and K. Matsuda, Nanoscale 7, 14476 (2015). 5) S. Mouri, Y. Miyauchi, and K. Matsuda, Apl. Phys. Exp. 9, 05502 (2016). 6) D. Kozawa, A. Carvalho, I. Verzhbitskiy, F. Giustiniano, Y. Miyauchi, S. Mouri, A. H. Castro Neto, K. Matsuda, and G. Eda, Nano Lett. 16, 4087 (2016). 7) W. Zhao, S. Wang, B. Liu, I. Verzhbitskiy, S. Li, F. Giustiano, D. Kozawa, K. P. Loh, K. Matsuda, K. Okamoto, R. F. Oulton, and G. Eda, Adv. Mat. 28, 2709 (2016). 8) S. Koirala, S. Mouri, Y. Miyauchi, and K. Matsuda, Phys. Rev. B 93, 075411 (2016). 9) D. Tan, H. En Lim, N. Baizura Mohamed, S. Mouri, W. Zhang, Y. Miyauchi, M. Ohfuchi, and K. Matsuda, Nano Research 10, 546 (2017). 10) S. Mouri, W. Zhang, D. Kozawa, Y. Miyauchi, G. Eda and K. Matsuda, Nanoscale 9, 6674 (2017). 5. 連絡先 〒611-0011 京都府宇治市五ヶ庄 京都大学エネルギー理工学研究所 電話:0774-38-3460 E-mail:matsuda@iae.kyoto-u.ac.jp 図2 原子層人工ヘテロ構造(MoSe2/MoS2)の発光スペクトルの温度依存性。 e-h+PL Intensity (arb. units)2.01.81.61.4Energy (eV)1L-MoS2/1L-MoSe2I XY280 K240 K200 K160 K120 K80 K40 K5 Ke-h+e-h+−151−

元のページ  ../index.html#161

このブックを見る