2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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かとなっている(図2上図)[1]。一方で、Nd2Ir2O7とTb2Ir2O7薄膜は希土類元素が大きな磁気モーメントを持つため(Nd3+: J = 9/2、Tb3+: J = 6)磁場によってドメインを反転させることができ、Ir4+のスピンも同様にドメイン反転していると考えられる。図3下図に示す磁気抵抗では8 T付近で大きなヒステリシスが観測され、ドメイン反転が起こっていることが確認できる。以上の考察より、Eu2Ir2O7は磁場冷却によってドメインが固定し、Tb2Ir2O7は磁場によってドメインを反転させることができるため、磁場冷却と磁場掃引を組み合わせることで、ドメイン壁を生成・消滅させることができると考えられる。 図3 Eu2Ir2O7薄膜(上図)とTb2Ir2O7薄膜(下図)のT-=2 Kにおける磁気抵抗の比較 この指針に基づき、Eu2Ir2O7/ Tb2Ir2O7ヘテロ構造を単層膜と同様の手法で作製した。この試料を9 Tの磁場で冷却し、磁気伝導度を2 Kにおいて測定した結果を図4に示す。まず磁気伝導度の2つの特徴として、6 T付近でのヒステリシスと正負磁場の非対称性が挙げられる。図3の単層膜のデータと比べるとヒステリシスはTb2Ir2O7に由来し、正負磁場の非対称性はEu2Ir2O7に由来すると考えられ、ともに単層膜の性質を表している。もう一つの特徴として、ゼロ磁場における伝導度が磁場掃引方向によって異なることが顕著である(図4左図Ginterfaceで示される部分)。この磁場掃引方向による伝導度の差を図4右図に示す。Eu2Ir2O7と Tb2Ir2O7のドメインが異なるときのみ伝導度が上昇しており、ドメイン壁の伝導を示している。この結果は磁壁をヘテロ構造によって生成・消滅を制御した初めての成果である[3]。 図4 磁場9Tで冷却したときのEu2Ir2O7/Tb2Ir2O7ヘテロ構造の伝導度(左図)とその磁壁伝導成分(右図)の磁場依存性 3. 今後の展開(計画等があれば) これまでパイロクロアIr酸化物の反強磁性の磁壁における伝導層の制御を行ってきた。この磁壁伝導は理論ではこの物質群のトポロジカルなバンド構造に起因していると予想されている。このようなトポロジカルなバンドに起因する伝導ではスピンの向きによって電子の運動方向が異なるなど、スピントロニクスへの応用が期待できる。今後はこの伝導層の性質を精密に調べ、スピン偏極状態やバンドのトポロジカル的な性質を明らかにしていく。 4. 参考文献 [1] T. C. Fujita et al., Sci. Rep. 5, 9711 (2015). [2] K. Matsuhira et al., J. Phys. Soc. Jpn. 80, 094701 (2011). [3] T. C. Fujita et al., Phys. Rev. B 93, 064419 (2016). 5. 連絡先(掲載してよい場合、住所、電話番号、E-mailアドレス等) 〒113-8656東京都文京区本郷7-3-1 TEL: 03-5841-6871 E-mail: kozuka@ap.t.u-tokyo.ac.jp −147−

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