2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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さい方が524 nWとなり,閾値で比べると,高Q値の方が優れている.一方,Q値が低いサンプルの方は,発振後の出力飽和が軽減されており,最大出力が大きくなる傾向が見られる.これは,Q値が低くなったことによって,共振器内光密度が下がり,強励起域での出力損失要因である2光子吸収と自由キャリア吸収が抑制できたからと思われる.発振可能な範囲で,なるべくQ値を下げた共振器構造を用いれば,出力向上が期待できる. C) 1.3 µm帯で動作するシリコンラマンレーザーの作製 これまで作製してきたラマンレーザーの動作波長は,1.55 µm帯であった.動作波長を短波化すれば,ラマン散乱確率が高まり,出力向上が得られと期待される.また,波長多重通信への応用を考えた場合でも,1.3 µm帯で動作するシリコンラマンレーザーを実現しておくことは重要である.光素子の性能を変えずに,動作波長だけを変えるには,デバイスサイズをスケール則に従って縮小するのが最善である.そこで,トップシリコン層の厚みを185 nmに薄膜化したSOI基板を作製して,1.3 µm帯のラマンシリコンレーザーを作製した. 図4に測定した共振スペクトルを示す.狙い通りの波長帯にストークスナノ共振モードの波長を設定できており,Q値も従来と同等の値が得られた.詳細は割愛するが,1.55 µm帯と同様に,閾値1 µW以下でレーザー発振を確認できており,出力の飽和が抑えられる傾向が見られている.動作波長をシリコンのバンドギャップ付近である1.2 µmまで短波化すれば,大きな出力向上が期待できる. 3. 今後の展開 3年間の研究で,ラマンシリコンレーザーの出力を,0.1 µWから1.0 µWまで向上できた.重要な改善手法は,1) 周波数差をシリコンのラマンシフトに高精度で一致させること.2) 2つのナノ共振モードのQ値を発振可能な範囲でなるべく下げること.3) ナノ共振器の体積を増やすことである.本研究により,発振メカニズムを深く理解できたため,これらの改善手法を組み合わせることで,近いうちに出力10 µWは達成可能と考えている.2020年をめどに,超小型電流注入シリコンレーザーを開発できると考えている. 4. 参考文献 [1] H. Rong, R. Jones, et. al., Nature 433, 725 (2005). [2] H. Rong, et. al., Nature Photonics 1, 232 (2007). [3] Y. Takahashi, et. al., Nature 498, 470 (2013). 5. 連絡先 住所:大阪府堺市中区学園町1-2 電話:072-254-8129 e-mail:y-takahashi@pe.osakafu-u.ac.jp 図2 (a) 体積を大きくしたナノ共振器構造.(b) 従来構造と新構造でのレーザー出力. 図3 レーザー出力のQ値依存性. 図4 開発した1.3 µm帯ラマンレーザーの共振スペクトル. −145−

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