2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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高Q値フォトニック結晶ナノ共振器を用いたラマンシリコン レーザーの高出力化 大阪府立大学大学院工学研究科准教授 高橋和 1. 研究の目的と背景 近年,ポータブル通信機器の爆発的普及に伴い,データセンターにおける消費電力の増大が問題となっている.超スマート社会の構築には,これまで銅配線で行ってきたデータ伝送を,光通信に切り替えていくことが不可欠となっている.そこで,シリコンフォトニクスの実用化が始まっている. シリコンフォトニクスにおいて,最も困難な課題の1つが,間接遷移型半導体であるシリコンを用いて,実用的なレーザーを開発することである.2005年にインテル社が開発したラマンシリコンレーザーは,20 mWを超える閾値と,1 cm以上の共振器長を持ち,さらに,2光子吸収により発生する自由キャリアを除去するためにP-i-N構造を付加する必要があった[1,2]. 2013年,研究代表者らは,図1(a)に示す高Q値フォトニック結晶ナノ共振器を用いて,従来の2万分の1の閾値(~1 μW)と1万分の1のサイズ(~10 μm)で室温連続発振するシリコンラマンレーザーを開発した[3].P-i-N構造を付加せずに,エネルギー変換効率4 %が得られており,電流注入型レーザーへの発展が期待できる.しかし,現状の出力は100 nW 程度と小さいため,本研究では,研究開始時点の100倍となる10マイクロワットを達成目標とした. 2. 研究内容 本レーザは,第2ナノ共振モードに励起光を,第1ナノ共振モードにラマン散乱光を閉じ込めてレーザー発振を達成しており,2つの共振モードの周波数差f,モード体積V,Q値,動作波長などが出力向上に関与する.本研究では,これらに付いて詳細に調べた. A) 共振器の体積を増やしたラマンシリコンレーザー シリコンラマンレーザーの出力は,2光子吸収に付随する自由キャリア吸収により抑制されることが知られている.この影響を,共振器体積を増やすことで低減できるかどうか調べた.図2(a)に作製した共振器構造を示す.共振器の長さLを,従来構造の3倍に伸ばしたサンプルを作製した.これにより,実効的な共振器体積は,2.5倍に増加するが,発振メカニズムは従来構造と同様である. 図2(b)にラマンレーザの入出力特性を示す.図は横軸を閾値で規格化してある.従来構造(黒色)と比較して新構造(赤色)では出力が2倍以上に向上している.これは,共振器の体積増加分と良く一致している.さらに体積を増やすことで,より大きな出力向上が可能と期待される. 体積を増加させた構造を用いることによる目立った性能劣化は確認されなかった.逆に,第1ナノ共振モードの個数が増えたことで,ラマンレーザーサンプルの発振歩留まりが上がり,10個中8個のサンプルで発振を確認した. B) 最適Q値の調査 高出力化のためには,ナノ共振モードのQ値がレーザ性能に及ぼす影響を調べることが重要になる.図3は,Qp, QSが高いサンプルと低いサンプルで,入出力特性を比較した結果である.2つのモードのQ値の積は,約9倍異なっている.閾値は,Q値が大きい方で113 nW,小図1レーザーに用いたヘテロ構造ナノ共振器.第2ナノ共振モードに励起光,第1ナノ共振モードにラマン光を閉じ込める. −144−発表番号 70 〔中間発表〕

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