2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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2-2.マイクロCT スキャナによる解析 甲虫の後翅の展開・収納機構は,複数の剛体パーツをジョイントで繋いで構成される人工の機械の可動部と異なり,一体型のフレームがフレキシブルに変形することで複雑な動きを実現している.ここでは材料( クチクラ) そのものの柔軟性だけでなく構造の弾性座屈が巧みに利用されている.この仕組みを解明するため,マイクロCT スキャンによってテントウムシの翅の立体構造の解明を行った.図4 にCTスキャン結果から再構成された展開時と収納時の翅の3D モデルを示す.昆虫の翅の大部分は柔らかい膜膜でできており,飛行中の翅の形状はいくつかの太いフレーム( 翅脈) で支えられている.マイクロCT スキャンの結果から,テントウムシの翅のフレーム( 図4 の斜線部分) は,巻尺のようなテープ・スプリング構造になっていることが明らかになった.この構造は人工衛星用展開アンテナ等にも用いられており,伸ばした状態で安定化し十分な強度を発揮するうえ,必要に応じて好きな場所を弾性的に折り曲げて畳むことができる.テントウムシはこの特性をうまく使い,素早くコンパクトに折り畳めるうえ,飛行の際の羽ばたきに耐えられる高い強度をもった翅を実現していると考えられる. 図4マイクロCTスキャナによって得られたテントウムシ後翅の3Dモデル(左:展開時,右:収納時) 2-3.折り線パターンの一般化 甲虫の複雑な折り畳みを理解する上で,折り畳みのパターンを展開図として示すことは非常に有効である.Forbesなどの著作には様々な甲虫の後翅の展開図が記載されており,近縁の種を参考にすることで非常に広範な種の折り畳みを調べることができる.これらの展開図は折線の大まかな位置を表すために描かれており,そのまま印刷しても折り畳むことは不可能であるが,各頂点で折り畳み条件が満たされるように折線の角度を修正することで実際に折り畳むことができる模型( 折紙モデル) を作成することが可能である.図5にこの方法で作成されたテントウムシの後翅の折紙モデルを示す. 3. 今後の展開 硬いパーツをジョイントで繋いで作る多くの人工的な変形機構と異なり,テントウムシの後ろばねの折り畳みにはフレームの部分的な柔軟性が巧みに利用されている.パーツの少ない非常にシンプルな構造で複雑な折り畳み形状を実現できるのはこのためであり,ここから学ぶことで,人工衛星用大型アンテナの展開からミクロな医療機器,傘や扇子などの日用品まで,形状変化機能を持つさまざまな製品の設計・製造する際の新しいアイディアが生まれると期待される. 4. 参考文献 [1]Howell LL (2001) Compliant mechanisms, (Wiley -Interscience, New York). [2]Saito K, Tsukahara A, Okabe Y (2016) Designing of Self-Deploying Origami Structures UsingGeometric- ally Misaligned Crease Patterns, Proceedings of The Royal Society A , vol. 472, 20150235. [3] 斉藤一哉,究極の展開構造:昆虫の翅の折り畳みに挑む,日本機械学会誌,2016 年10 月号,pp.556–557 [4]Kazuya Saito, Shuhei Nomura, Shuhei Yamamoto, Ryuma Niiyama, Yoji Okabe (2017) Investigation of hindwing folding in ladybird beetles by artificial elyt- ron transplantation and micro computed tomography, Proc. Natl. Acad. Sci. 114(22), pp. 5624-5628 [5]Forbes WTM (1926) The wing folding pattern of the Coleoptera. J. N. Y. Entomol. Soc. 24, 91-139. 図5テントウムシ後翅の折紙モデル −141−

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