2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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折紙の幾何学と小型甲虫の後翅の展開収納機構を融合 させた新しいコンプライアント・メカニズムの創成 東京大学大学院情報理工学研究科特任講師 斉藤一哉 1. 研究の目的と背景 現在,微細加工技術の発展と共に様々なナノ・デバイスが開発され,高機能化が進められている.しかしながら,形状変形が必要なデバイスにおいては,従来の様な剛体をジョイントで結合した機械的メカニズムをナノレベルで組み立てることは不可能であり,ピンセットの様な単純な機構しか実現が難しい現状にある.そこで材料に弾性変形を許容するコンプライアント・メカニズム1が注目されている.これは弾性ヒンジ等部材の弾性を利用して構造に自由度を持たせる新しい種類のメカニズムであり,一体成型が容易であることから近年急速に進化した立体造形技術との親和性も高く,様々なデバイスを高機能化させる革新的な技術となると期待されている.本研究の目的は折紙の幾何学の工学応用2と,昆虫の翅の展開,収納機構の研究3,4を融合させることで,新しいコンプライアント・メカニズムの創成することにある.研究助成期間においては,後翅の強度・剛性と収納効率のバランスが優れているテントウムシを中心に,1.後翅の収納動作の解明,2.マイクロCT スキャナによる後翅の構造の解析,3.折り線パターンの一般化に関して研究を行った. 2. 研究内容(実験、結果と考察) 2-1.後翅の収納動作の解明 テントウムシの後翅には伸びる方向の弾性が備わっており,離陸時にはこの弾性力を使って一瞬で翅を展開し離陸する.一方,収納時にこの弾性力に逆らってどうやって翅を折り畳んでいるのかはこれまで曖昧な説明しかされてこなかった.収納時に胴体の上下運動が観察されるが,具体的な収納プロセスは最初に閉じられる鞘翅が邪魔になって観察できない.そこで本研究では,UV 硬化樹脂で作成した透明な鞘羽を移植することで( 図1,図2),折り畳みプロセスを可視化し,具体的な収納メカニズムを解明した.図3 はこの方法で人工鞘翅を移植したナナホシテントウを使って撮影した後翅の収納動作である.人工鞘翅はUV 硬化樹脂でできており,生体から切除した本物の鞘翅から歯科用シリコン樹脂を使って作成した型から製作された.得られた結果から,胴体の上下運動だけでなく,鞘翅 の内側の曲面やエッジ,三日月型の翅脈を器用に使って後翅に折線を導入し,背中でこすり上げることで徐々に翅を引き込んでいることが明らかになった. 図1人工鞘翅の製作と移植手術の概要 図2人工鞘翅を移植したテントウムシ 図3透明鞘翅を移植したテントウムシを使った後翅の収納動作の観察 −140−発表番号 68〔中間発表〕

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