2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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イオン液体及びポリマー電解質デバイスにおける電子ないしLiイオンの帯電・放電中の特性カーブを測定した結果、ドレイン電流IDは典型的なn型の挙動を示し、ゲート電圧VGの増加に伴い3桁以上増加した。ゲート中のリーク電流IGはイオン液体デバイスよりもポリマー電解質デバイスの方がはるかに大きく、Li イオンが確かに薄膜中にインターカレーションしていることを反映している。抵抗率の温度依存性においては、両者の場合でVGの増加に従って抵抗率が減少し金属状態への転移が観測された。 次に帯電・放電過程における結晶構造の変化を調べるため、in situ X線回折測定を行った(図3)。ポリマー電解質デバイスの場合には、VGを0 Vに戻した後でも薄膜は金属的なままであり、絶縁体状態に戻すためにさらに-0.5Vの負電圧を印加した。帯電過程において計3つの相が現れ、それぞれの相変化過程において相分離状態が観測された。相分離を伴う急激なc軸長の変化は、放電過程においても観測された。一方、ポリマー電解質デバイスの場合、その相転移挙動はイオン液体デバイスとは大きく異なる。c軸長が伸びる際に、イオン液体デバイスで見られた相分離現象とは異なり、ポリマー電解質デバイスでは連続的なc軸長の変化を示した。この違いは、イオン液体及びポリマー電解質デバイスにおけるドープ過程が異なったものであることを明確に示している。 イオン液体デバイスの場合、チャネル表面に形成された電気二重層が電荷蓄積された表面層から順に格子変形を引き起こし、キャリア密度の増加に従って格子変形が内部層へと伝播する。対照的に、ポリマー電解質デバイスの場合、Li イオンが膜中に拡散し、膜全体で均一な格子変形を引き起こす。つまり、観測された転移挙動の違いは、静電的なキャリア蓄積か電気化学的な反応かの違いに起因している。 3. 今後の展開 本研究の成果は、酸化物薄膜と電解質の界面における複雑なドーピングダイナミクスを包括的に理解することで、イオンゲート法による新しい電子機能の開拓への道を拓くと期待される。今後、強誘電体d0ペロブスカイト型酸化物等に対象を拡げ、ドーピングダイナミクスの知見を生かした機能開拓を目指す。 4. 参考文献 [1] S. Nishihaya, M. Uchida, Y. Kozuka, Y. Iwasa, and M. Kawasaki, ACS Appl. Mater. 8, 22330-22336 (2016). 5. 連絡先 住所: 東京都文京区本郷7-3-1 工学部8号館305号室 電話番号: 03-5841-6837 E-mailアドレス: uchida@ap.t.u-tokyo.ac.jp図2 作製したWO3薄膜の構造評価。 図3 二種類のデバイスの帯電・放電過程における比較。 −139−

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