2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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イオンゲート法を用いた酸化物薄膜における革新的電子機能の開拓 東京大学大学院工学系研究科助教 打田正輝 1. 研究の目的と背景 固体と電解質の界面は、結晶成長・触媒過程・酸化還元反応等の様々な化学反応の舞台となる。特に電界下では、イオンはホスト物質中に取り込まれ、イオン電池における基礎的な化学反応を示す。一方、インターカレーションはホスト物質の電子相を制御するための有効な手法としても認められている。例えば、多くの多孔質または層状の化合物において、超伝導状態をはじめとするエキゾチックな電子相への転移がインターカレーションによって引き起こされることが知られている。そのような化学反応とは別に、イオンまたは荷電分子が固体表面に蓄積し、いわゆる電気二重層を界面に形成する場合もある。 電気二重層トランジスタは、電気二重層における非常に薄いキャパシタを利点とし、1015 cm-2ものキャリア密度の電荷キャリアをチャネル表面に蓄積することを可能とする。これまでに、SrTiO3や KTaO3等のd0ペロブスカイト型酸化物において、電界効果によって超伝導が誘起されることが報告されてきた。しかしながら、電気二重層における大きな電界は、電解質からのイオンのインターカレーションや固体酸化物表面からのイオンの除去等の化学反応を引き起こす可能性もある。このような背景において、静電的なキャリア蓄積及び電気化学的なインターカレーションの両方の実験に適用可能なチャネル材料を選び、そのゲート特性を直接比較することには、イオンゲート法による新しい電子機能を開拓していく上で非常に重要であると考えられる[1]。 2. 研究内容 今回我々は d0ペロブスカイト型酸化物 WO3がAサイトに原子を持たないペロブスカイト型酸化物である点に強く着目した(図1)。この目立った特徴により、格子中の大量の空孔は、イオン電池のアノードのようにカチオンを収容することができる。Li+のようなアルカリ金属イオンを含む電解質を用いることによって、ゲート電界の印加によりイオンインターカレーションが容易に引き起こされると期待される。それゆえ、WO3は静電的なキャリア蓄積と電気化学的なインターカレーションのドーピング過程を比較するのに適した物質といえる。さらに、WO3はキャリア密度に応じて容易に格子構造を変化させることが知られており、電気的な輸送特性だけでなく格子変形の観点からも両者のゲート過程を調べることが可能である。 そこで我々は二つの異なる種類の電解質をゲート材料に用いてWO3薄膜の電界ゲート動作を調べた。WO3薄膜はパルスレーザー堆積法によりYAlO3基板上に作製した(図2)。用いた電解質のうち一つは、典型的なイオン液体であるN,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(DEME- TFSI)であり、静電的なプロセスによる電子蓄積が期待される。もう一つは、LiClO4を支持塩として含んだポリエチレンオキシド(PEO)であり、Li イオンがWO3薄膜中にインターカレーションし電子をドープすることが期待される。実際に、明確な絶縁体金属転移が両者の場合において観測され、あわせて両者のゲート過程中にin situでX線回折測定を行った。 図1 イオンゲート法における二種類のドーピング過程とデバイス構造。 −138−発表番号 67〔中間発表〕

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