2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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血液の固まりやすさを表している. 基本的には ACT の値だけ計測に時間がかかる. 例えば ACT が 200 の場合は計測に 200 秒程度の時間を要する. 通常の血液の ACT は200 以下であるため,本実験では 300 を上回った時点で十分に大きいとして計測を打ち切った. 採血した全血で直ちに測ることができるため, 実験中はこの値をもとに血液の状態を知り, CaCl2 溶液の添加量や実験の終了時間などを決めた. このような実際の応用現場と近い環境での血栓形成過程実験でも静止場と同様に特性周波数はピークを持つことが分かった(図2). また, 活性化凝固時間 (ACT) および凝固因子の濃度変化と比較すると, 特性周波数の増加は血栓形成が起きたと考えられる時間と一致するため,これらの間に深い関係があると考えられる. 特に, 赤血球の凝集能の影響を考える. 血液凝固過程で血栓が形成される直前に, 高分子であるフィブリノゲンがフィブリンモノマーへと変化する. この過程が特性周波数に大きく影響していると考えられる. おそらく, ACT が下がる血栓形成の直前で, 赤血球の凝集能は増加する. そのため凝集した血液の量が増え, 赤血球の形状が円盤から離れたために特性周波数が増加したと考えられる. 次第に血栓形成が進みフィブリノゲンがなくなると, 凝集能が下がり今度は特性周波数が下がったのではないかと考えられる. 以上のことから, 特性波数は赤血球の凝集能の変化を主に反映し, 血栓形成過程においてピークを持ったと考えられる[4]. 図2模擬循環流路における血栓形成時の特性周波数の変化 流体力学シミュレーション: 赤血球の配向と変形による変動のシミュレーションを行った. せん断力が低いときには赤血球がランダムに配向し, せん断力が高いときには赤血球がせん断力に対して平行に配向することを仮定した[5]. 変形についてはせん断力がかかると赤血球はせん断方向に引き伸ばされ, 体積が変化しないように短軸方向には薄くなることを仮定した.シミュレーション結果から流量が増加すると特性周波数も増加するという傾向は実験結果と合い, 配向の影響が見られた . さらに、血液の沈降、凝集特徴のシミュレーションを行った結果、実験結果と同様であった。 3. 今後の展開(計画等があれば) 現在までの成果では血液凝固過程発生後の検出はできるが, 事前に凝固のリスクを解析し, 最適な抗凝固処置に利用することはできない. このような意思決定問題では異常状態およびその進行度を調べるバイオマーカの発見に関する報告は多くあるが, 多くのバイオマーカは効率良く(リアルタイム計測など)医療現場で使用することが困難である.今後はリアルタイムで計測できる血液凝固リスクバイオマーカを用いて, リアルタイムで凝固リスクを調べる方法を確立することを望まれる. 4. 参考文献 [1]K.S. Cole, Permeability and impermeability of cell membranes for ions, 1940. In Cold Spring Harbor Symposia on Quantitative Biology, 8:110-122. [2]K. Baskurt, U. Mehmet and H. J. Meiselman, Time course of electrical impedance during red blood cell aggregation in a glass tube: comparison with light transmittance, 2010. IEEE Transactions on Biomedical Engineering, 57(4) (2010): 969-978. [3] T. Fuse, A. Sapkota, O. Maruyama, R. Kosaka, T. Yamane and M. Takei, 2015. Analysis of the influence of volume and red blood cell concentration of a thrombus on the permittivity of blood, Journal of Biorheology, 29, pp: 15-18 [4]N.H. Dung, D. Kikuchi, O. Maruyama, A. Sapkota, M. Takei, Cole-Cole analysis of thrombus formation in anextracorporeal blood flow circulation using electrical measurement, 2016. Flow Measurement and Instrumentation,53(A):172-179 [5] A. Sapkota, T. Fuse, M. Seki, O. Maruyama, M. Sugawara and M. Takei, 2015. Application of electrical resistance tomography for thrombus visualization in blood, Flow Measurement and Instrumentation, 46(B):334-340 5. 連絡先(掲載してよい場合、住所、電話番号、E-mailアドレス等) 〒292-0041千葉県木更津市清見台東2-11-1 電話:0438304131 E-mail: sapkota@j.kisarazu.ac.jp −137−

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