2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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電気計測および流体力学シミュレーションによる血栓の早期検出手法の確立 ○木更津工業高等専門学校情報工学科 助教 SAPKOTA ACHYUT 1. 研究の目的と背景 現在,人工心肺装置,人工透析装置などの体外循環装置を含め, 人工心臓,人工弁,人工肺,人工血管,ステント,人工腎臓,および人工肝臓などの人工臓器が実用化されつつあり,人類の寿命が劇的に変化しようとしている.しかしながら,人工臓器は血栓が生じやすく,その血栓形成メカニズムの詳細は不明であり,「いつ」「どこで」「どれだけ( 大きさと量)」の微小血栓を検出できる手法の確立が早急に求められている.さらに,その血栓形成の科学的な「なぜ」を理解するために,血栓シミュレーションとの融合が必要不可欠である.そこで本研究では,電気計測法,流動特性のシミュレーションと実験を含め, において血栓形成時の電気特性から,微小血栓検出が可能なオンライン検出法を確立することを目的とした. 2. 研究内容 (実験、結果と考察) 実験条件1:静止状態 ウシとブタ血液を使用して実験を行った. 血液には,クエン酸ナトリウム水溶液を添加し,ウシ全血の血漿中に含まれる遊離カルシウムイオンをクエン酸ナトリウム水溶液に含まれるクエン酸によってキレート化し,自然に血栓 形成することを阻止した. 血栓形成を促進させるために, 塩化カルシウム水溶液 (CaCl2) を添加した. ここ で, CaCl2 を添加した瞬間を t=0.0min とし,実験終了までインピーダンスの計測を行った . 測定周波数は 100kHz から 5MHz までの間の 210 点を線形的に掃引した. 血液に対して周波数を掃引してインピーダンス計測を行うと周波数によってインピーダンスの実部と虚部が円弧を描いて変化する. それは、Cole-Cole プロットという[1]. ここで、当該円弧の特徴を表すパラメータ(Cole-Cole パラメータ)の解析を行った. Cole-Cole パラメータの中で主に特性周波数(虚部が最大になる周波数)と血栓生成の相関が得られた(図1). 血栓形成時では特性周波数に最初に少し増加し, ピーク時間が現れ, その後減少するに転じる. 無血栓状態では特性周波数が減少し続けピークが現れなかったことから特性周波数がピークに達する時間が微小血栓生成時間と考えられる. 実施した実験条件でヘマトクリット値 H が 20% のとき, ピーク時間が 1 分程度で, ヘマトクリット値 H が 30% のとき, ピーク時間が 2 分程度で, ヘマトクリット値 H が 40% のとき, ピーク時間が3分程度であることが分かった. このように, ピーク時間はヘマトクリット値に依存する. ヘマトクリット値が低いとき血漿の体積分率が高くなり血漿にある凝固因子の量も高くなる. そのため凝固凝固過程が早くなると考えられる[2,3]. 図1静止状態の血液における血栓形成時の特性周波数の変化 実験条件2:流動実験 体外循環装置と近い環境で体外模擬流路を用いて実験を行った. 同模擬流路は恒温槽,リザーバー, 流量計, ポンプ, インピーダンスアナライザーおよび電極で構築された. ブタおよびウシ血液を使用した. ヘマトクリット値はヒト血液と近い値( 42% ~ 4 4 % )に調整した. 凝固剤として CaCl2を使用した. 恒温槽で 37 °Cに保たれた流路を血液で満たし, 約10分血液を循環させ, 赤血球の沈降や偏りを取り除いた. 一度目の溶液の添加直後に計測を開始した. 電気インピーダンスのほかに, 流量, 活性化凝固時間, 凝固タンパク質のフィブリノーゲン濃度( Fbg) を計測した. 活性化全血凝固時間( Activated Clotting Time: ACT )は異物 (本実験ではガラス粒)が全血に接触してからの凝固時間のことであり, −136−発表番号 66〔中間発表〕

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