2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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ハードウェアを用いた量子アルゴリズムの高速シミュレーションおよびその量子アルゴリズム開発・量子計算モデル解析への応用 山形大学 地域教育文化学部 准教授 中西 正樹 1. 研究の目的と背景 量子計算機は従来の計算機(古典計算機)と異なり量子力学に基づく動作をする.したがって,量子計算機向けのアルゴリズム(量子アルゴリズム)は従来のアルゴリズムとは根本から異なるものであり,それゆえ従来のアルゴリズムでは成し得ない高速化を達成できると考えられている.その一方で量子アルゴリズムの開発は困難な要素を多く含んでおり,いかにして容易な開発環境を整えるかが重要なテーマとなっている. 量子アルゴリズムの開発支援ツールのひとつとして,量子アルゴリズムのシミュレータが挙げられる.量子アルゴリズムのシミュレータはその用途によっていくつかに分類することができる. 1. 量子アルゴリズムの振る舞いを確認するもの. 2. 量子アルゴリズムの実行中に生じる物理的なエラーの影響を確認するもの. 3. 量子アルゴリズムをシミュレートすることで古典計算機上で高速に問題を解くもの. いずれの用途であっても,量子計算機の振る舞いを古典計算機でシミュレートすることになるため,その実行には通常指数時間を要する.そのため,量子アルゴリズムシミュレータの高速化は非常に重要と考えられる. 量子計算機はある種の並列計算機と考えることができるため,そのシミュレーションには並列計算を行えるデバイスを用いるのが効率的である.このことから,ハードウェアを用いて並列処理を行う量子計算機シミュレータの開発が盛んに行われてきた[1, 3-5]. 一方で量子アルゴリズム開発に目を向けると,量子計算機の振る舞いの複雑さゆえ直感的に動作を理解することが難しいことから,様々な困難が挙げられる.量子アルゴリズムの高速なシミュレーション環境があれば,量子コンピュータの振る舞いを可視化しつつ把握することも可能になり,量子アルゴリズムの開発も進むものと考えられる. 本研究では,ハードウェアを用いた量子アルゴリズムシミュレータを開発し,さらには,新しい量子アルゴリズムの開発および量子計算モデルの能力の解析を行った. 2. 研究内容 (1) 量子アルゴリズムシミュレータの開発 量子アルゴリズムはある種の並列アルゴリズムと考えられるため,並列計算を行えるハードウェアによる実装が親和性が高いと考えられる.そこで,本研究では,最初に量子アルゴリズムをシミュレートするハードウェアの開発を行った. ハードウェア量子アルゴリズムシミュレータ 量子アルゴリズムのシミュレーションでは量子コンピュータの計算の状況を記録するのに多くのメモリ領域を使用するため,メモリアクセスがボトルネックとなる.本研究では,演算のスケジューリングを行うことにより,このボトルネックの解消を図った.また,ハードウェア上にシミュレータを実装する上で,高速化を阻害するもう一つの要因として,複雑なレジスタ間ネットワークが挙げられる.本研究では,レジスタの並べ替えを行うことで,このレジスタ間ネットワークを単純化できることを示した.また,実際にFPGA 上に実装し,実験によりその有用性を示した. GPGPU 量子アルゴリズムシミュレータ 次に,GPGPU 上に量子アルゴリズムシミュレータを実装することにより,高速化を目指すことを目標とした.GPGPUは超並列計算を行えるデバイスであり,FPGA 上への実装と同様に量子アルゴリズムのシミュレーションに有効であると考えられる.GPGPU上への実装においても,メモリアクセスがボトルネックとなるため,キャッシュの有効利用という観点からボトルネックの解消を図った.この際,前述のハードウェアシミュレータで得られた知見を応用することで,GPGPU向けの演算スケジューリングを行い,高速化を図った.さらには実際にGPGPU上への実装を行い,実験によりその有用性を示した. 用途を限定した量子アルゴリズムシミュレータ 上記は汎用量子アルゴリズムシミュレータに関する研究であるが,シミュレータの用途を限定することで,−134−発表番号 65〔中間発表〕

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