2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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図2 Feナノ薄膜のカー回転角の決定.709 eVのs偏光(a)とp偏光(b),722 eVのs偏光(c)とp偏光(d). (2)自由電子レーザー施設FERMIにおける時間分解軟X線カー効果測定 ここで自由電子レーザー施設FERMIにおける時間分解カー効果測定の結果を示す.測定はFERMIのビームラインDiProIで行い、ポンプ光として赤外レーザー,プローブとしてFELを用いている.FELの波長はFe M端である23.6 nm (52.5 eV)である.測定温度は室温である。それぞれのパネルが,各ディレイでの結果を示す.2つの曲線(青と赤)は試料表面から垂直方向での磁場上向きと下向きの場合の結果に対応する.実線でcos でフィットさせた結果を示している.2つの曲線の位相差からカー回転角が決定できる.-100 fsでのカー回転角は3.2度である.ここでカー回転角はGdFeCo内のFeの磁気モーメントの面直方向成分を示す.図3がカー回転角の時間変化より得られた磁化のダイナミクスを示す.図中の矢印の長さは各ディレイでのカー回転角の大きさを示す.赤外レーザー照射から200 fsたつと,カー回転角が符号変化を示し,これはFeの磁化の反転を表す.この反転機構は熱的なプロセスに分類され,円偏光レーザーによる逆ファラデー効果によるものとは異なる.FELの繰り返しが10 Hzであることを考えると,Feの磁化は遅くともポンプの100 ms後には元の状態に回復していることになる.ここで,ポンプの赤外レーザーは直線偏光であるため.光子と物質中のスピンの間で角運動量のやりとりはない.ということは,角運動量のやり取りはGd副格子とFe副格子の間のみに閉じている.我々の時間分解軟X線カー効果測定の結果は,FELを用いた今後の超高速スピンダイナミクス観測への道を切り開くものと考えられる. 図3 外からの磁場Hに対する鉄の磁気モーメントの磁化反転ダイナミクスの模式図. 3. 今後の展開 本研究により,新しい測定手法である軟X線カー効果が確立された.さらなる新しいデータ解析法の研究により,軌道モーメントとスピンモーメントの分離など,吸収分光の円二色性測定で可能であることはカバーできると考えられる.さらに,本手法を用いることで,直線偏光のFELによるスピンダイナミクス研究も確立した.今後の物性物理学において,スピンのダイナミクスをFELで実時間観測することが新分野として今後の潮流となることが期待される.紫外からX線のFELを用いて,物性物理学,特にスピンダイナミクス研究への本格的利用が今まさに始まろうという段階である. 4. 参考文献 [1] S. Yamamoto, Y. Senba, T. Tanaka, H. Ohashi, T. Hirono, H. Kimura, M. Fujisawa, J. Miyawaki, A. Harasawa, T. Seike, S. Takahashi, N. Nariyama, T. Matsushita, M. Takeuchi, T. Ohata, Y. Furukawa, K. Takeshita, S. Goto, Y. Harada, S. Shin, H. Kitamura, A. Kakizaki, M. Oshima and I. Matsuda, 2014. J. Synchrotron Radiat., 21: 352-365. [2] Y. Kubota, Sh. Yamamoto, T. Someya, Y. Hirata, K. Takubo, M. Araki, M. Fujisawa, K. Yamamoto, Y. Yokoyama, M. Taguchi, S. Yamamoto, M. Tsunoda, H. Wadati, S. Shin and I. Matsuda, J. Electron Spectrosc. Relat. Phenom., https://doi.org/10.1016/j.elspec.2016.11.008 [3] Sh. Yamamoto, M. Taguchi, T. Someya, Y. Kubota, S. Ito, H. Wadati, M. Fujisawa, F. Capotondi, E. Pedersoli, M. Manfredda, L. Raimondi, M. Kiskinova, J. Fujii, P. Moras, T. Tsuyama, T. Nakamura, T. Kato, T. Higashide, S. Iwata, S. Yamamoto, S. Shin and I. Matsuda, 2015. Rev. Sci. Instrum., 86: 083901-1-5. [4] C.-Y. You and S.-C. Shin, 1996. Appl. Phys. Lett., 69: 1315-1317. 5. 連絡先 〒277-8581 千葉県柏市柏の葉5-1-5 東京大学物性研究所 wadati@issp.u-tokyo.ac.jp TEL: 04-7136-3400 FAX: 04-7136-3283 −131−

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