2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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精密分子設計により還元作用を導入した機能性有機ケイ素材料の創出 大阪大学大学院基礎工学研究科 准教授 劒 隼人 1. 研究の目的と背景 遷移金属錯体を触媒とした様々な有機合成反応において、反応活性な低酸化数の金属錯体の生成には「還元剤」が必須である。従来の還元剤は、金属ナトリウムを始めとして非常に反応性が高く、発火性の危険があるなどの問題点を含んでいたが、長年改善されてこなかった。また、得られる低酸化数の化学種には還元剤由来の金属塩が不純物として含まれる問題も残されてきた。このような背景のもと、取扱いが容易で発火性などの危険がなく、また、還元反応後に還元剤由来の金属塩を与えない全く新しい還元剤の開発が強く求められている。われわれは、π共役系を含む有機ケイ素化合物が電子供与性に富み、一電子を容易に放出することから、「電子供与性の非常に高い有機ケイ素化合物」を合成することで、還元作用を示す機能性有機ケイ素材料を開発した(図1)。さらに、還元反応に伴う副生成物はすべて有機化合物であることから、還元反応後の低酸化数錯体は余分な他の金属塩を含まず、高い触媒活性を発現することを明らかにした。 NNSiMe3Me3SiRNNSiMe3Me3Siジヒドロピラジン誘導体ジヒドロビピリジン誘導体 図1.金属錯体に対して還元作用を示す機能性有機ケイ素化合物 2. 研究内容 2-1.芳香族ハロゲン化物を用いた還元的ビアリール合成反応への応用1 ゼロ価の金属成分を用いた芳香族ハロゲン化物を原料とする還元的カップリング反応(Ullmannカップリング反応)は、古くから研究が行われている非常に強力なビアリール形成反応の一つである。この反応では生成物と当量の還元剤の使用が必須であり、反応の進行につれて還元剤とハロゲンに由来する金属塩を副生するため反応系が不均一となり、その結果、触媒活性が低下することが以前から問題となってきた。われわれは、金属を用いない還元剤として図1に示す機能性有機ケイ素化合物の開発に成功し、触媒反応への応用に関する研究を進めてきた。その結果、2価ニッケル錯体を触媒前駆体として芳香族ハロゲン化物との反応を行ったところ、2価ニッケル錯体と有機ケイ素化合物との反応によりニッケルナノ粒子が生成し、その後、高収率で対応するビアリール誘導体が得られることを見出した(図2)。有機ケイ素化合物をその他の様々な金属錯体に適用して触媒的なビアリール合成反応を検討したところ、いずれの場合にも金属錯体の還元反応は進行する一方、ニッケル錯体以外を触媒として用いた場合には非常に反応効率が悪く、ニッケルに特異的な反応であることが分かった。 RBrNi(acac)2+NNSiMe3Me3SiRR1/2up to 99% yieldNi(0) particleNi(0) particle(cat.)+NNSiMe3Me3Si- Me4pyrazine- 2 (acac)SiMe3- Me4pyrazine- 2 BrSiMe3 図2.有機ケイ素化合物を用いた還元的カップリング 高い触媒活性を示したニッケルに関して、還元反応により生成するナノ粒子のTEMならびにTED解析を行ったところ、興味深いことに「非晶質性」のニッケルナノ粒子が生成していることが分かった。一方、リチウム粉末や水素化ホウ素ナトリウムを用いた還元により生成する結晶性ニッケルナノ粒子は触媒活性を全く示さない。すなわち、有機ケイ素化合物を用いた2価ニッケル −4−発表番号 2〔中間発表〕

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