2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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光励起誘電率増加効果を利用した超高速チューナブルフィルタの開発 山形大学大学院理工学研究科 准教授 齊藤 敦 1. 研究の目的と背景 限られた周波数資源の有効活用及び多様化するソフトウェアの実現に向け,チューナブルフィルタに関する研究のニーズが高まり,これまでいくつかのチューニング方式が検討されてきた[1-4].近年,比誘電率を変化させる一つの方法として,量子常誘電体への光照射による比誘電率変化の研究が行われており,SrTiO3(STO) にバンドギャップより大きいエネルギーをもつ光を照射して誘電率測定を行った結果,低温での比誘電率が1桁から2桁以上も増加することが報告されている.[5-6] これらの現象は光照射によりSTO 内部の電子が巨大分極を形成しそれが巨大な誘電率増加につながっていると考えられているが,いまだに決定的なメカニズムの解明には至ってはいない,さらに1 MHz 帯以上での光照射による実験報告もなされていない.この現象が高周波帯でも生じることが明らかになれば比誘電率増加の原因解明の一因となる可能性のみならず,これまでとは全く異なる原理に基づくチューナブルフィルタとしての応用が可能となり,可変範囲の増加,チューニング速度の向上及びチューニングの簡易化が可能となると予想される.しかしながら,このような例は他の研究機関ではこれまで全くなされていない. 本研究の最終目的は光励起誘電率増加効果を利用した超高速チューナブルフィルタの開発である.本報告では高周波帯域でのSTO への光照射によるεrを評価可能な測定系の構築及び光照射によりSTO のεrが1MHz 以上で変化するかについて調査した結果について報告する. 2. 研究内容 本研究では,GHz 帯以下でかつ未だ実験的に調査されていない広帯域な周波数帯(1 MHz ~100 MHz) での光照射による比誘電率測定の検討を行った.初めにシンプルなキャパシタンスモデルを提案し,Sonnet によって電磁界解析を行った.図1(a) は薄膜型平行平板キャパシタンスモデルのシミュレーションパターンを示している.このシミュレーションによって比誘電率測定パターンの最適化を行い,その結果をもとにSTO 基板上にAu 薄膜パターンの作製を行った.図1(b) は作製したサンプルの実装図を示している.このモデルは,上下パターンをそれぞれ電極にもつコンデンサとして近似できることから,シミュレーションによる解析結果とベクトルネットワークアナライザ(VNA)によるインピーダンス測定により実際の比誘電率を評価できる.実際の比誘電率()frεを次式によって評価した.()()()fCfCfcalmeasrr/εε= ここで,rεは比誘電率(=300 一定),()fCcalはシミュレーションにより得られるキャパシタンス,()fCmeasは実験により得られるキャパシタンスを示している。図1(c) は光照射実験の外観図であり,右図はVNAを示している.作製したサンプルをクライオスタット20 K 冷凍機によって冷却,および温度制御(20 K~300 K)を行い,光照射による比誘電率変化を評価した.図2は周波数100 MHz における比誘電率の温度依存性を示している.温度低下によって比誘電率の急激な増加が確認できる.更に極低温領域(35 ~ 40 K 付近)では光照射によって比誘電率増加が明瞭に確認できた.図3は比誘電率変化量の温度依存性を示している.MHz 帯では35~40K の温度での光照射による比誘電率の増加が最も大きいということが明らかになった.(a)(c)(b)lightベクトルネットワークアナライザ 図1 (a) 薄膜型キャパシタンスモデルのシミュレーションパターン、(b) STO 基板上に作製したサンプルと治具への設置写真、(c) 光照射実験系の外観−128−発表番号 62〔中間発表〕

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