2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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UV吸収スペクトルから本酵素はフラビン酵素であることが示唆され、FADの添加により水和活性が上昇することを明らかにした2)。 2)主要代謝中間体の生理機能解析 Transient receptor potential vanilloid 1 (TRPV1) に着目した。TRPV1は交感神経活性化を介してエネルギー代謝を亢進することから、肥満や生活習慣病の予防において有効な標的分子であると考えられており、近年では他の食品成分によっても活性化されることが報告されている。そこで、本研究では食餌脂肪酸の乳酸菌代謝物のTRPV1活性化能及び、それを介した生体内でのエネルギー消費亢進作用について検討した。TRPV1活性化作用について、培養細胞を用いたカルシウムイメージングにより評価したところ、食餌脂肪酸乳酸菌代謝物のうち、リノール酸由来の代謝物、10-keto-12-cis- octadecenoic acid(ketoA) が最も強い活性化能を有することが示唆された。そのため、以後はketoAに焦点を当てて検討を行ったところ、ketoA はパッチクランプにおいてもTRPV1を活性化することが明らかとなった。また、TRPV1の主な発現部位である感覚神経節から単離した神経細胞においてもketoA はTRPV1を活性化することが認められた。そこで次に動物個体レベルでの作用を検討するため、食餌誘導性肥満モデル動物であるC57BL/6マウスに対する10週間の混餌投与を行った。その結果、0.1% ketoA摂取群において、体重増加抑制・体脂肪蓄積抑制作用およびインスリンやレプチンなどの血中パラメータの改善が認められた。また、酸素消費量および直腸温の上昇が認められたため、褐色脂肪組織などにおいてエネルギー消費に重要な脱共役タンパク質1(UCP1)発現量について検討したところ、ketoA摂取群において、鼠径部白色脂肪組織におけるUCP1発現量の増加が認められた。一方、TRPV1 KOマウスではketoA摂取による上記の変化はいずれも認められなくなった。従って、ketoA摂取はTRPV1活性化を介してエネルギー消費を亢進させることが示唆された。以上の結果から、ketoAはTRPV1に対する活性化作用を有しており、ketoA摂取は肥満に伴う代謝異常症の予防・改善作用を示すことが示唆された。 3)関連酵素の高機能化と新規機能性脂質の酵素合成 L. plantarum AKU 1009a由来水和酵素CLA-HYを大量発現する形質転換大腸菌を作製し、LB培地にて培養、IPTGによる導入タンパク質の誘導を行った。培養・誘導後、遠心分離により集菌したのち洗浄することにより洗浄菌体を取得した。また、リノール酸含有油脂に対するリパーゼの加水分解能をTLCにて評価し最適なリパーゼ及びリパーゼ濃度を決定した。油脂、洗浄菌体の共存下においてリパーゼを添加し反応時間ごとに水酸化脂肪酸の生産量を評価した。 リノール酸を含有する油脂を基質とし、7種類のリパーゼの加水分解能を調べた結果、Lipase AY 30が最も高い加水分解能を示した。1 mlの反応系において、小麦胚芽油500 mg、洗浄菌体(湿菌体200 mg)の共存下Lipase AY 30の添加量が水酸化脂肪酸の生産に与える影響を調べた。その結果、Lipase AY 30を0.5 mgを添加した時に水酸化脂肪酸の生産量が最大となった。上記の反応条件において反応温度37℃さらに4℃と変化させることにより、リノール酸含有油脂から変換率88%(対リノール酸変換率)でHYAを得た。以上のことからリパーゼを共存させることにより油脂から直接水酸化脂肪酸生産が可能であることが明らかとなった。 3. 今後の展開 ①多様な腸内細菌脂質代謝の解析し代謝産物の同定。 ②主要代謝中間体の生理機能を脂質代謝制御、免疫制御、炎症抑制などの観点から解析する。 ③新たな機能性脂質を選抜・デザインする。 ④代謝中間体の腸管内分布をメタボローム解析により定量的に解明する。 ⑤腸内細菌の脂質代謝関連遺伝子情報を、集積が目覚ましい腸管メタゲノム情報と照合し、健康・疾病とリンクする遺伝子ならびに代謝中間体を選抜する。 ⑥関連酵素の高機能化を通した新規機能性脂質の酵素合成法を開発する。 4. 参考文献 1) Kishino, S., et al., Polyunsaturated fatty acid saturation by gut lactic acid bacteria affecting host lipid composition. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 110, 17808-17813 (2013). 2) Hirata, A., et al., A novel unsaturated fatty acid hydratase toward C16 to C22 fatty acids from Lactobacillus acidophilus. J. Lipid Res., 56, 1340-1350 (2015). 5. 連絡先 E-mail: ogawa@kais.kyoto-u.ac.jp −123−

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