2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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腸内細菌脂質代謝の解析に基づく新規機能性脂質のデザインと酵素合成法開発 京都大学大学院農学研究科 教授 小川 順 1. 研究の目的と背景 メタボリックシンドロームの増加により、脂質代謝改善が望まれてきている。一方、腸内細菌が健康に与える影響に関心が集まっており、未開拓であった腸内細菌脂質代謝の解明に基づく、腸管内脂質代謝制御に関する情報の収集が急務となってきている。申請者らは、ヒト腸管内に存在する嫌気性細菌・乳酸菌をモデルに、新規な不飽和脂肪酸飽和化反応系の全貌を解明し、本代謝に関与する4種類の酵素の特定、代謝中間体の構造決定をなし得た(図1)1)。 図1.新規酵素群CLA-HY,CLA-DH,CLA-DC,CLA-ERにより触媒される不飽和脂肪酸飽和化反応 本研究では、その過程で見いだされてきた代謝中間体の生体内での存在を明らかにするメタボローム解析ならびに生理機能解析に取り組む。また、腸内細菌の脂質代謝関連遺伝子情報を、集積が目覚ましい腸管メタゲノム情報と照合し、健康・疾病とリンクする遺伝子ならびに代謝中間体を選抜する。続いて、得られた知見に基づき新たな機能性脂質をデザインするとともに、代謝解析にて得られる酵素群を活用した新規機能性脂質の酵素合成法開発に取り組む。 2. 研究内容 腸内細菌の不飽和脂肪酸飽和化代謝に関して、特に、代謝中間体として見いだされた新たな脂肪酸誘導体(水酸化脂肪酸、オキソ脂肪酸など)の腸管内分布の解析と生理機能解明を基盤に、新規機能性脂質の選抜・デザインに取り組んだ。さらに、代謝中間体の生成に関わる酵素群の高機能化を図り、これらの酵素を活用した新規機能性脂質の酵素合成法開発を試みた。 具体的な研究項目と、その成果は以下の通り。 1)多様な腸内細菌脂質代謝の解析と代謝産物の同定 乳酸菌Pediococcus sp. AKU 1080をリノール酸(cis-9,cis-12-octadecadienoic acid)を基質とする反応に供したところ3種類の水酸化脂肪酸が生成した。 得られた水酸化脂肪酸を分取・精製し、GC-MS, NMR分析等に供した結果、10-hydroxy-cis-12-octadecenoic acid、13-hydroxy-cis-9-octadecenoic acid及び10,13- dihydroxy-octadecanoic acidと同定した。本反応を詳細に検討したところリノール酸のΔ9位を水和する酵素とΔ12位を水和する酵素の異なる2つの水和酵素の関与が示唆された。また、本菌はリノール酸同様に分子内にΔ9位とΔ12位のシス型二重結合を有するα-リノレン酸、γ-リノレン酸、ステアリドン酸にも作用し、それぞれに対応した水酸化脂肪酸を生成する事を明らかにした。 新たにリノール酸のΔ12位の二重結合を水和しC13位に水酸基を導入するLactobacillus acidophilus NTV001選抜し、本活性を担う酵素遺伝子の特定と酵素の諸性質解明を試みた。cla-hy(図1のCLA-HYをコードする遺伝子)とのホモロジー検索により、本反応を触媒する酵素遺伝子(fa-hy)を本菌のゲノムよりクローニングし、形質転換大腸菌を作製した。得られた形質転換体の洗浄菌体を触媒として炭素数18の様々な脂肪酸に対する水和反応を検討した結果、リノール酸、α-リノレン酸、γ-リノレン酸から、各々対応する13-hydroxy脂肪酸が生成することを確認した。また、10-hydroxy- cis-12-octadecenoic acid(HYA) から10,13- dihydroxy-octadecanoic acidが生成した。これにより、FA-HYを発現させた形質転換大腸菌を触媒として様々な13-hydroxy脂肪酸の生成が可能となった。 またFA-HYを精製し、酵素学的諸性質を検討した結果、反応の至適pHは6.0、至適温度は40℃であり、pH 3.5~8.0、温度40℃までの条件下で安定であった。さらに本酵素の−122−発表番号 60 〔中間発表〕間発表〕

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