2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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ポア断面積により電極間に架橋される分子数が規定可能かどうかを検証した(図2)。測定対象分子には、ベンゼンジチオールやアルカンジチオール、オリゴチオフェンジチオールに加え、アルカンモノチオール分子を採用した。その結果、オクタン以上の長さのアルカンモノチオールにおいて、比較的歩留まり高く電極-多数分子-電極構造が得られた。特にオクタンモノチオールでは、理論と良く一致をみる非線形な多数分子接合に特徴的なI-V曲線が得られ(図3)、またその電気伝導度はナノポアサイズに比例して増大する傾向も確認できた。以上の結果より、ナノポアのサイズで電極間に架橋する分子数を制御可能な面直型有機分子アレイ素子構造の作製に成功した。現在は、マイクロヒータを組み込んだナノポア素子を作製し(図2)、これを用いて多分子接合の熱電特性評価を進めている。 上述のとおり、面直型有機分子アレイ素子の作製が可能になり、その熱電特性評価について見通しが立ってきた。そこで、高性能な熱電素子の創製に向けて、多分子接合を構成する個々の電極-単分子-電極構造の熱電特性向上に資する電極-分子接合構造設計を調べた。その結果、チオール基を有する分子に限り、接合を機械的に引っ張ることで、そのパワーファクターが平均的な特性に比べて2桁以上向上する傾向が観測された[6]。この結果は、面直型有機分子アレイ素子において個々の分子の配向や電極-分子接点構造次第で、その熱電性能が大きく変化することを示唆している。一方、多分子接合は、分子溶液中に電極を浸漬し、その表面上に分子が化学的に吸着することで形成されるため、その配向は自由に制御できるものではない。そこで、分子接合形成過程において、分子配向を能動的に制御するための手法を開発した[7]。この方法は、電極間に印可する直流電圧と分子が持つ双極子モーメントとの相互作用を利用して、電極間に架橋する1分子の配向を電場方向に揃える、というものであり、多分子接合の形成過程における個々の分子配向を制御する手段として応用可能であり、その熱電性能の向上だけでなく、配向のバラつき抑制による1分子素子性能のバラつき低減に寄与できる有用な技術として広く応用されることが期待できる。 3. 今後の展開(計画等があれば) 今後は、ヒータ組み込み型ナノポア素子を用いて、多分子接合の熱電性能評価を実施し、1分子機能を保持した分子アレイ構造の性能動作実証を進める。 4. 参考文献 [1] M. S. Dresselhaus, G. Chen, M. Y. Tang, R. Yang, H. Lee, D. Wang, Z. Ren, J. –P. Fleurial, and P. Gogna, Adv. Mat. 19 (2007) 1043. [2] J. P. Heremans, M. S. Dresselhaus, L. E. Bell, and D. T. Morelli, Nat. Nanotechnol. 8 (2013) 471. [3] G. D. Mahan and J. O. Sofo, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93 (1996) 7436. [4] L. D. Hicks and M. S. Dresselhaus, Phys. Rev. B 47 (1993) 12727. [5] Y. Dubi and M. Di Ventra, Rev. Mod. Phys. 83 (2011) 131. [6] M. Tsutsui, K. Yokota, T. Morikawa, and M. Taniguchi, Sci. Rep. 7 (2017) 44276. [7] S. Tanimoto, M. Tsutsui, K. Yokota, and M. Taniguchi, Nanoscale Horiz. 1 (2016) 399. 5. 連絡先(掲載してよい場合、住所、電話番号、E-mailアドレス等) tsutsui@sanken.osaka-u.ac.jp 図3. オクタンモノチオール多数分子接合のI-V特性. 図2. マイクロヒータ組み込み型ナノポア素子の走査電子顕微鏡像.直径50nmのナノポアの中に,Au-単分子膜-Au接合構造が形成されている. −117−

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