2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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分子アレイ型熱電発電モジュールの開発 大阪大学産業科学研究所准教授 筒井真楠 1. 研究の目的と背景 熱エネルギーを電気エネルギーに直接変換することができる熱電デバイスは、一つの理想的なクリーンエネルギー創出手段として、その広い産業応用に向けた研究開発が盛んに行われてきているものである[1,2]。この熱電デバイスが抱えている大きな課題が、その低いエネルギー変換効率である。熱電デバイスでは、用いられる熱電材料のZTと呼ばれる無次元性能指数によってエネルギー変換性能が決められる。高ZTの達成には、高い電気伝導率とゼーベック係数に加えて、低い熱伝導率を併せ持った材料の開発が必要となる。しかし、バルク結晶材料において、これら3つの特性は相互に関連したものであり、例えば電気伝送率を向上させるべく材料のキャリア濃度を上げると、それに伴い熱伝導率も上昇するなどのジレンマがあり、高ZT材料開発は容易なものではないことが知られている。 そのような中で近年注目されているのが、ナノ構造材料に発現する量子閉じ込め効果の応用である[3]。例えば、超格子薄膜のような2次元系材料では、量子効果により電子状態密度はエネルギーに対して階段状に、ナノワイヤなどの1次元系になると鋸刃状に、量子ドットのようなゼロ次元系の場合には、デルタ関数状に変化する。一方、熱電材料のZTを大きく決めるゼーベック係数は、電子状態密度の立ち上がりが急峻であるほど高い値となる、という性質がり、この観点からするに、上記の低次元構造材料の中で、ゼロ次元系材料が熱電応用に最も適したものである、という理論的予測がなされてきた[4] 本研究で取り扱う単分子熱電素子は、2個の電極間に配線された1個の有機分子で構成される化学的にその構造が極めて精緻に作られたゼロ次元系ナノ構造であり、量子ドットと同様に、量子効果を反映した分子軌道レベル近傍で生じる急峻な状態密度の立ち上がりを利用して、高いゼーベック係数の達成が見込まれている新しい熱電材料である[5]。そこで、この研究では、この単分子接合が有する量子効果を反映したユニークな熱・電気輸送特性をバルクスケールのデバイスで発現するための新規ナノ構造の開発に取り組んだ。開発したのは、Siウエハ上に作製するナノスケールの細孔と、その中に2個の平面電極で挟まれた単分子膜で構成される面直型有機分子アレイ素子構造である(図1)。こうして作られる多分子接合において、電極間に配線された個々の分子が、隣接する他の分子と相互作用しないような工夫を取ることで、それぞれが単分子接合特有の特性を発現すると期待できる。本研究では、まず多分子接合を構成する分子数を細孔断面積で規定可能なナノポア素子の創製を試みた。そして、その素子構造を改良し、多分子接合の熱電特性評価が可能なセンサデバイスとして、マイクロヒータ組込み型ナノポア素子の設計開発を実施した。さらに、1分子熱電計測を通して、高性能1分子熱電素子に資する分子-電極接合構造設計指針を明らかにするとともに、その多分子素子応用に向けて、直流電場と1分子双極子モーメントとの相互作用を利用した分子配向制御技術を創成した。 2. 研究内容(実験、結果と考察) 直径が600nmから50nmまでのナノポアで構成された面直型有機分子アレイ素子を作製し、その電流-電圧特性を測定し、導出される電気伝導度から、ナノ 図1. 面直型有機分子熱電素子のモデル図.2個の電極間に配線された多数分子における熱電現象により,電極間の温度差を利用して電気エネルギーが得られる. −116−発表番号 57 〔中間発表〕〔中間発表〕

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