2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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きた。ピーク強度比は3:4:1:1:4:3であった。これは、スピン構造がコリニア型で、スピンが電場勾配(薄膜の面外方向)に垂直である、という中性子回折の結果と符号している。一方、温度が下がるにつれて、ピーク2と5の相対強度比が減少していることがわかる。そこで、サイクロイドスピン構造におけるスピンを、薄膜の面内方向と面外方向を向いた二種類のスピンで表すことができると仮定し、ピーク強度比が3:4:1:1:4:3と3:0:1:1:0:3で、QSの比が-1:2という二成分でのフィッティングを行った。その二成分の割合から、サイクロイド相とコリニアスピン相の分率を求めた。コリニア相の分率の温度変化は磁化の温度変化と良い一致を示すことがわかる(図2(b))。この結果は、薄膜の磁化の温度変化が、コリニア相からサイクロイド相へのスピン構造変化によるものであることを示している[3]。 最後に強誘電性と強磁性の相関の有無を調べるために、PFMとMFMを用いて強誘電ドメインと強磁性ドメインの観察を試みた。しかし、磁気構造変化が観測できたSrTiO3基板上のBiFe1-xCoxO3薄膜の自発磁化は薄膜面内に存在するため、MFMを用いた磁気ドメインの観察は困難であった。そこで、薄膜面外方向に磁化成分を持つことが期待できるGdScO3 (110)基板上のBiFe1-xCoxO3薄膜について同様の実験を行った。図3(a)にGdScO3 (110)基板上のBiFe0.9Co0.1O3に薄膜の面内PFM像を示す。ストライプ上のコントラストが存在することがわかる。このようなドメイン構造は(001)配向のBiFeO3薄膜でしばしば報告されており、71°ドメインであると考えられる。図3(b)に同一の領域で観察したMFM像を示す。PFM像と類似したコントラストが存在することがわかる。磁性カンチレバーの磁化の向きを反転させて観察して、コントラストが反転することを確認し、これらのコントラストが磁気ドメインに対応することを確認した。以上の結果から、強誘電ドメインと強磁性ドメインの間に相関が存在することが明らかになった。 3. 今後の展開(計画等があれば) これまでの研究により、BiFe1-xCoxO3薄膜に室温で弱強磁性と強誘電性が共存していることが明らかとなった。さらに強磁性ドメインおよび強誘電ドメインの間には相関があるということも見出した。この結果は、電場による磁化制御の可能性を強く示唆するものである。予備的な結果として、PFMによる書き込みにより強誘電ドメインの形状が変化し、それに伴い強磁性ドメインの形状が変化することは確認できている。両ドメインの変化を詳細に調べ、電気分極の反転による磁化反転の有無を確認することが今後の課題である。 4. 参考文献 [1] I. Sosnowska, M. Azuma et al., Inor. Chem. 52, 13269 (2013). [2] D. Sando, et al., Nature Mater. 12, 641 (2013). [3] H. Hojo et al., Adv. Mater. 29, 1603131 (2017). 5. 連絡先 住所:〒816-0932 福岡県春日市春日公園6-1 電話:092-583-7526 E-mail : hojo.hajime.100@m.kyushu-u.ac.jp図3 GdScO3(110)基板上のBiFe0.9Co0.1O3薄膜の(a)面内PFM像および(b)MFM像。コントラストはそれぞれ強誘電ドメインと磁気ドメインに対応する。 図2 (a)メスバウアースペクトルの温度変化と(b)コリニア相の分率と磁化の温度変化 −113−

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