2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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Bi系マルチフェロイック薄膜の磁気構造制御と電場による磁化反転の実現 九州大学大学院総合理工学研究院准教授 北條元 1. 研究の目的と背景 室温で強磁性と強誘電性が共存するマルチフェロイック物質は、低消費電力・高記録密度・不揮発性の次世代メモリデバイス実現のための鍵となる物質である。BiFeO3は巨大な電気分極を持つこと、またその強誘電秩序に加えて反強磁性秩序を併せ持つマルチフェロイック物質であることから多くの注目を集めている。その磁気秩序は基本的に最近接スピンが反平行のG型であるが、それに重畳したサイクロイドスピン構造を持ち、そのスピン構造に起因した電気分極も存在する。一方、スピン傾斜による磁気モーメントは局所的には存在するが、サイクロイド変調によりそれらは打ち消しあうため自発分極は存在せず、線形の電気磁気効果も現れない。我々は、Feを一部Coで置換したBiFe0.8Co0.2O3が、低温ではサイクロイドスピン構造を持つが、120 K以上では0.03 µB/f.u.の弱強磁性成分を持つ、キャントしたコリニアなスピン構造へ転移することを、多結晶試料の中性子回折実験により見出した[1]。つまり、BiFe0.8Co0.2O3には弱強磁性と強誘電性が存在することが期待できる。本研究では、電場による磁化制御を目標として、パルスレーザー堆積(PLD)法によりBiFe1-xCoxO3薄膜を作製し、その結晶構造と電気・磁気特性を調べた。 2. 研究内容 BiFeO3薄膜の磁気構造は格子歪みに敏感であることが知られている[2]。そこでバルク試料と同じスピン構造変化を示すBiFe1-xCoxO3薄膜を得るために、基板として、菱面体晶構造の安定化が期待できるSrTiO3(111)および薄膜との格子ミスマッチの小さなGdScO3(110)を選択した。なお、GdScO3は√2a x √2a x 2a(aは単純ペロブスカイトの格子定数)の斜方晶ペロブスカイト構造をもつため、(110)面は擬立方表記での(001)面に対応する。 まずはSrTiO3 (111)基板上のBiFe1-xCoxO3薄膜についての結果を示す。全ての組成において、単相の菱面対称構造を持つBiFe1-xCoxO3薄膜が得られたことをXRD 2θ-θスキャンおよび121ピークのφスキャンにより確認した。続いて、x=0, 0.10組成の薄膜についてはP-Eヒステリシスループにより、x=0.15組成についてはPFMによる書き込みにより、室温で強誘電体であることを確認した。 BiFe1-xCoxO3薄膜の面内残留磁化の温度依存性を図1(a)に示す。x=0および0.05組成の薄膜の磁化は、この温度範囲でほぼゼロであった。これに対し、x=0.10 および0.15組成の薄膜の磁化は、それぞれ、おおよそ220 Kおよび130 Kで大きく変化していることがわかる。このような磁化の変化は、バルク試料で観測されている[1]。300 Kにおける面内磁化の外部磁場依存性を図1(b)に示す。x=0.10および0.15組成の薄膜は、強磁性ヒステリシスループを示した。残留磁化の値は、0.04 µB/f.u.程度であり、バルク試料の値とほぼ一致している。これらの結果から、x=0.10および0.15組成の薄膜は、バルク試料と同様に、室温において傾角スピンによる弱強磁性を示していると考えられる。 続いて、種々の温度で測定したBiFe0.9Co0.1O3薄膜のメスバウアースペクトルを図2(a)に示す。300KのデータはアイソマーシフトIS: 0.385 mm/s, 四重極分裂QS: -0.216 mm/s, 内部磁場Bhf: 47.6 Tの一成分でフィッティングで図1 BiFe1-xCoxO3薄膜の(a)残留磁化の温度依存性と(b)室温での磁化曲線。 −112−発表番号 55 〔中間発表〕

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