2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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味深く、反芳香族化合物の新たな側面を示すことができたと考えている。 NNNNNiRRNNNNNiRRNuHNu = CN or SPh 図4 ノルコロールの直接置換反応 また、中心金属がニッケル以外のノルコロールの合成についても検討した。ジピリンパラジウム錯体を基質として低原子価ニッケルによるホモカップリング反応を行うと、8つのピロールからなるオクタフィリンパラジウム二核錯体のみが収率59%で得られた5)。 一方、周辺置換基の異なるノルコロールニッケル錯体を合成するなかでフェニル基をもつノルコロールニッケル錯体が結晶中で三重に積層した興味深い構造をとることを見いだした。 そこで、溶液中でも積層した構造を安定にとることを狙い、二分子のノルコロールを連結した。まず、ノルコロールにアリルチオールを反応させアリルチオ基を導入したノルコロールを得た。次に、アリルチオノルコロールのオレフィンメタセシス反応によりノルコロール二量体を合成することに成功した(図5)。 NNNNNiPhPhSHNNNNNiPhPhSNNNNNiPhPhNNNNNiPhPhSSオレフィンメタセシス反応直接官能基化ノルコロールノルコロール二量体 図5 積層ノルコロール二量体の合成 合成したノルコロール二量体は非常に近接した(3.0 Å)積層構造をとっていることをX線結晶構造解析から明らかにした。さらに、積層ノルコロール二量体のNMRスペクトル測定および詳細な光学特性の測定から、その反芳香族性が大きく低下していることが判明した。また、ノルコロール単量体は不安定な化合物であったが、二量化するとその安定性が大きく向上することが分かった。このことも、反芳香族化合物が積層することにより芳香族性が発現し安定化することを示唆している。以上のように、積層型反芳香族化合物において反芳香族性が大幅に低下するという新現象を観測することに世界で初めて成功した(図5)6)。 図5 積層反芳香族化合物における芳香族性の発現 SchleyerおよびFowlerは反芳香族化合物を積層させると強い軌道間相互作用により芳香族性が発現することを分子軌道計算から予言していた。しかし、これまで積層した反芳香族化合物の合成は全く達成されておらず、実験的にその芳香族性を観測した報告例は一例もなかった。本研究で積層反芳香族ノルコロールにおいて反芳香族性が大幅に低下したことは,この理論予測を初めて実証したものであり、芳香族性の概念を拡張する大きな成果であると考えている。3.今後の展開ごく最近、中心に銅をもつノルコロール錯体の合成に初めて成功した。今後は、ノルコロールの様々な金属錯体を合成し、それらの構造・物性・機能を探求することにより反芳香族性と金属の性質が相乗的に作用する系を模索したい。また、積層反芳香族化合物の物性と機能についてさらに研究を行っていきたい。 4. 参考文献 1) Ito, T.; Hayashi, Y.; Shimizu, S.; Shin, J.-Y.; Kobayashi, N.; Shinokubo, H. Angew. Chem. Int. Ed. 2012, 51, 8542. 2) Shin, J.-Y.; Yamada, T.; Yoshikawa, H.; Awaga, K.; Shinokubo, H. Angew. Chem. Int. Ed. 2014, 53, 3096. 3) Fukuoka, T.; Uchida, K.; Sung, Y. M.; Shin, J.-Y.; Ishida, S.; Lim, J. M.; Hiroto, S.; Furukawa, K.; Kim, D.; Iwamoto, T.; Shinokubo, H. Angew. Chem. Int. Ed. 2014, 53, 1506. 4) Nozawa, R.; Yamamoto, K.; Shin, J.-Y.; Hiroto, S.; Shinokubo, H. Angew. Chem. Int. Ed. 2015, 54, 8454. 5) Kido, H.; Shin, J.-Y.; Shinokubo, H. Angew. Chem. Int. Ed. 2013, 52, 13727. 6) Nozawa, R.; Tanaka, H.; Cha, W.-Y.; Hong, Y.; Hisaki, I.; Shimizu, S.; Shin, J.-Y.; Kowalczyk, T.; Irle, S.; Kim, D.; Shinokubo, H. Nat. Commun. 2016, 7, 13620. 5. 連絡先 Email: hshino@chembio.nagoya-u.ac.jp −109−

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