2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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安定な反芳香族化合物の開発とその応用研究 名古屋大学大学院工学研究科教授 忍久保洋 1. 研究の目的と背景 反芳香族化合物は一般に合成が難しく、また不安定で単離が困難である場合が多い。これが、反芳香族化合物の研究の発展を阻んできた大きな要因である。最近我々は、反芳香族性ポルフィリン(ノルコロールニッケル錯体)を安定かつ効率的に合成することに成功した1)。これにより、反芳香族化合物を一回の合成によりグラムスケールで供給できるようになった(図1)。 NNNNNiMesMesBrBrBrBrzinc powderNNNNNiMesMes90%NiCl2/PPh3DMF, 45 °C30 min2.50 g1.45 g 図1 ノルコロールニッケル錯体の合成 反芳香族化合物は狭いHOMO-LUMO gapもち、長波長領域に吸収をもつ。また、酸化還元を起こしやすいという特徴がある。反芳香族化合物には本来魅力的な性質があり、芳香族化合物とは異なる独自の応用展開があるはずである。本研究では、大量に合成できるようになった反芳香族性ポルフィリンを用い、その応用を開拓することを主な目的として研究を進めた。 2. 研究内容(実験、結果と考察) ノルコロールニッケル錯体が二電子還元・二電子酸化を容易に受けることを見いだした。そこで、反芳香族化合物の応用の可能性を探求するべくノルコロールニッケル錯体を電極活物質として用いた二次電池を試作した2)。反芳香族化合物の多電子酸化還元過程を用いることにより充電容量の増大を期待した。 まず、ノルコロールニッケル錯体を正極に、金属リチウムを負極に用いた二次電池を作成した(図2)。その結果、容量は従来のLiCoO2を用いるリチウム電池を超える容量(207 mAhg–1)を達成し、100回の充放電を繰り返したあともその性能を保っていることが明らかになった。この充放電サイクル特性は有機化合物を用いた二次電池としては高いものである。 図2リチウム/ノルコロール電池 さらに、反芳香族化合物が電子の放出と電子の受容の両方に優れている点を活用し、正極・負極の両方の活物質としてノルコロールニッケル錯体を用いて、金属リチウムを含まない二次電池の作成にも成功した(図3)。この電池は、最高86 mAhg–1の充電容量を示し、100回の充放電サイクルのあとも約90%の性能を保持することが判明した。今回の結果は、反芳香族合物が耐久性の高い二次電池の開発につながる可能性を先駆けて示すものであり、有機化学分野だけでなく広く材料科学分野への波及効果があるものと期待される。また、これまでほとんど応用的研究が行われてこなかった反芳香族化合物に関する研究を活性化するものと期待している。 Charge2e–2e–Power sourceDischarge2e–2e–Over 100 cyclesNNNNNiNNNNNi2+RRRR+ 2e–16π antiaromatic14π aromaticNNNNNi2–RRNNNNNiRR– 2e–16π antiaromatic18π aromaticNNNN14π aromaticNi2+RR16π antiaromaticNNNNNiRR– 2e–16π antiaromaticNNNN18π aromaticNiNNNNNi2–RRRR+ 2e– 図3 リチウムを用いないノルコロール電池 一方、ノルコロールニッケル錯体の反応性を明らかにする目的で様々な反応を試みた。嵩高い置換基によって安定化されたシリレンをノルコロールニッケル錯体と反応させたところ、高い位置選択性でケイ素の挿入反応が進行し、π共役系上にケイ素を含む新規ポルフィリノイドが生成した3)。さらに、ノルコロールニッケル錯体に求核剤としてシアン化物イオンやチオラートアニオンを反応させると、対応する官能基を位置選択的に導入できることを見いだした(図4)4)。ノルコロールニッケル錯体が触媒なしに求核剤の直接置換を受ける点は興−108−発表番号 53
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