2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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レトロトランスポゾン由来の遺伝子Peg11のアンチセンスRNAに含まれる miRNAの機能解析 東海大学健康科学部教授 金児-石野 知子 1. 研究の目的と背景 申請者は哺乳類特異的エピジェネティック機構であるゲノムインプリンティングの研究から2つの父親性発現インプリント遺伝子とが、哺乳類特異的臓器である胎盤の形成と機能維持に必須な機能をもつことを明らかにしてきた。面白いことに、これらは哺乳類が新たに獲得したレトロトランスポゾン由来の遺伝子である。には逆向きに転写される母親性発現アンチセンス()が存在し、そこに含まれる複数のがの分解に機能すると考えられている。これらのインプリント遺伝子を含むヒト染色体番のインプリント領域は父親性2倍体症候群(胎盤過剰発現、ベル型肋骨形成を伴う呼吸不全による新生児致死、腹直筋乖離、生後の成長遅延、精神遅滞など)、母親性2倍体症候群(出生前後成長不良、筋緊張低下、思春期の早発)の発症に関わることが知られている。そこで、本申請研究ではこの哺乳類特異的遺伝子と本疾患との関係を詳細に解析し、またに対するがの発現量調節を通じて本疾患の新規治療法となりうるかその実用性を検討した。 2.研究経過 これまでマウスではの欠失及びの欠失に伴うの過剰発現が、胎盤において胎児毛細血管維持に障害をきたし胎児期後期の成長遅延や致死の原因となることを報告した。また、胎盤での機能解析からに含まれる複数のは、単独でもの発現量に影響を与えるが、最終的には加算的に効果を及ぼしていること、さらには胎児毛細血管維持だけでなく胎児毛細血管系の発達にも関係し、重篤な場合には胎児期中期致死を引き起こすことを明らかにした。しかし、新生児致死が胎盤の機能不全だけで説明がつくのかどうかは不明のままであった。その理由の一つは、胎児側での異常を検出できて来なかったことであり、もう一つは、マウスの結果とは対照的に、ヒトのヒト染色体番父親性2倍体症候群の解析結果からはの過剰発現とベル型肋骨異常による新生児致死とに高い相関関係を示すデータが共同研究者から出されていたことにある()。このことから、本疾患の治療のためのの利用法を開発するとともに、本疾患の原因解明のため遺伝子が胎盤以外にも胎児で機能する可能性を再度、詳細に解析し直した。 3. 研究結果と考察 病理切片の作成法や免疫染色法などに工夫を加えることにより、の欠失及び過剰発現が、それぞれ筋繊維直径の縮小、拡大を伴った筋肉構造異常を引き起こしていることを確認した図。これまでタンパク質は筋肉の構成成分として報告されておらず、新しい因子として重要な機能を果たしていること明らかにした。が哺乳類(真獣類)特異的遺伝子であることを考えると、哺乳類の筋肉の特殊性を表すものであるといえる。また、今回のマウス、マウスに見られた表現型をヒト染色体番父親性2倍体症候群、母親性2倍体症候群の症状と詳細に比較することで、ヒト染色体番母親性2倍体症候群に見られる筋緊張低下や、父親性2倍体症候群に見られる腹直筋乖離や呼吸不全などの主症状は、の機能異常が原因であることが明らかにできたと考えている(表1)。これは、筋肉組織におけるの過剰発現をで制御することが有望な治療法になるだけでなく、の発現誘導が様々な筋肉疾患の治療へ応用できる可能性を示せたものと考えている(論文投稿中)。 図1 Peg11過剰発現による筋肉の構造異常 矢印:筋細胞にみられる中心核は未成熟であることを示す。 −106−発表番号 52

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