2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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ホン酸との配位子交換により表面カルボキシル基修飾強磁性 Fe3O4 ナノ粒子の調製法を探索した.用いたホスホン酸は,dodecylphosphonic acid (DPA) と16-carboxyhexadecylphosphonic acid (16-CDPA) とし,配位子交換反応を行う際の初期の DPA/16-CDPA のモル比は1/1 とした.一方で,表面カルボキシル基修飾 CdS ナノ粒子については,錯体熱分解法により,12-Dodecanethiol (DT) および16-mercaptohexadecanoic acid (MHA) 共存下,オクチルエーテル中にて,ステアリン酸カドミウムとテトラメチルチオウレアとを反応させることにより合成した.このようにして得られたカルボキシル基修飾 Fe3O4 ナノ粒子および CdS ナノ粒子について,アミド化を介してデンドロン修飾を行った.デンドロン修飾量の最適化を行うことにより,ナノ粒子への自己組織性の付与を試みた.また,CdS ナノ粒子については,自己組織構造の形成と量子ドットの発光・消光挙動を精査すると共に,その発光・消光メカニズムの解析を行うこととした. まず,アミノ基修飾液晶性デンドロン G2 (Figure 3) を得た. 一方で,錯体熱分解法により合成した粒径 6.5 nm の単分散 Fe3O4 ナノ粒子については,配位子交換反応により,DPA/16-CDPA モル比 3.6/1 の割合でカルボキシル基を導入できた.この粒子を用いて,G2 とのアミド化を行った.その結果,粒子一個あたりの G2 修飾量は84分子と帰属され,密にG2 修飾できる手法を確立した.さらに G2 修飾後の粒子は基板上で2次元的なヘキサゴナル配列パターンを形成し,デンドロンの自己組織性を付与できることが明らかとなった.今後,Sheffield University の Ungar 教授らと連携し,磁場下での温度可変 SAXS 測定により,ナノ組織構造解析を行う予定である. 引き続き,CdS ナノ粒子について,デンドロン修飾による自己組織性の付与につき検討した.その結果,CdS 粒子についても密な G2 修飾法を確立することができた.得られた粒子に対し,放射光小角散乱法を用いて,三次元的な自己組織構造を解析した.その結果,G2 修飾 CdS ナノ粒子は,空間群 P213 からなる対称性の低い液晶性キュービック相を形成する事が明らかとなった.続いて,このような特徴的な構造が,量子ドットとしての発光挙動にどのような影響を与えるか精査した.蛍光スペクトルを Figure 4 に示す.その結果,アモルファス構造を形成するサンプルでは,450, 470 nm を中心とした強い発光が観察された.これに対し,加熱処理温度を高めた結果,蛍光が急激に低下し,液晶性 P213相を形成する状態では,蛍光がほぼ消失し,消光することが明らかとなった.このような発光・消光が,P213 液晶構造の形成に由来するものかどうかを調べるため,一度消光したサンプル,すなわち,P213 構造を形成しているサンプルを溶解し,再度,石英基板上にキャストすることで,再度アモルファス状態とした後に蛍光スペクトル測定を行った.その結果,加熱前の強い蛍光が再度観察され た.ここからさらに再度 150 ℃に加熱し,P213構造を形成した後に再び蛍光スペクトル測定を行ったところ,蛍光は消光することがわかった.この結果から,量子ドットの消光挙動は,液晶性 P213 構造が形成された時のみ発現する挙動であり,ナノ組織構造の形成に由来した量子ドットの発光・消光の制御が可能であることがはじめて示された.5) 詳細な消光メカニズムの解析の結果,量子ドットの励起エネルギーがデンドロンへと移動することが消光の鍵であることが明らかとなった.このようなエネルギー移動を,量子ドットから,プラズモン特性を有するナノ粒子や磁性ナノ粒子へと誘起することができれば,新たなメタマテリアルとなると期待できる. 3. 参考文献 1) K. Kanie, T. Sugimoto, J. Am. Chem. Soc., 125, 10518-10519 (2003). 2) K. Kanie, A. Muramatsu, J. Am. Chem. Soc., 127, 11578-11579 (2005). 3) K. Kanie, M. Matsubara, X. Zeng, F. Liu, G. Ungar, H. Nakamura, A. Muramatsu, J. Am. Chem. Soc., 134, 808-811 (2012). 4) M. Matsubara, A. Miyazaki, X. Zeng, A. Muramatsu, G. Ungar, K. Kanie, Mol. Cryst. Liq. Cryst., 617, 50-57 (2015). 5) M. Matsubara, W. Stevenson, J. Yabuki, X. Zeng, H. Dong, A. Muramatsu, G. Ungar, K. Kanie, Chem, 2, 860-876 (2017). 4. 連絡先 〒980-8577 仙台市青葉区片平2丁目1番1号 TEL & FAX: 022-217-5165 E-mail: kanie@tagen.tohoku.ac.jp Figure 3. 本研究で合成した液晶性デンドロン G2 の構造 Figure 4. デンドロン修飾 CdS ナノ粒子の液晶性 P213 自己組織構造形成前後における蛍光スペクトル変化 −99−

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