2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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への結合性を評価した。その結果、抗体存在下では、樹状細胞への結合性が顕著に低下したことから、これらペプチドは蛋白質Xを介して、樹状細胞、特にpDCに結合することが明らかとなった。なお、本報告書の内容は既に特許出願(特願2016-183942)しているものの、論文としての公表には至っていないため、本発表では、ペプチド配列および蛋白質Xの詳細は伏せることをご容赦頂きたい。 次に、これらペプチドのワクチンアジュバント効果を検証した。樹状細胞特異的モチーフを有するペプチドは、全て同様の活性を示す可能性も考えられるが、本モチーフ以外のアミノ酸配列により、ペプチド間の活性が異なることも考えられる。そこで、樹状細胞特異的モチーフを有するものの、異なる配列から構成される約10種類のペプチドを用いて、ワクチンアジュバント効果を検証した。まず簡便さから、ストレプトアビジン誘導体であるNeutrAvidin(NA)とビオチン化修飾されたペプチドの複合体をマウスに投与し、NA特異的抗体価を指標としてワクチン効果を検証した。その結果、ほぼ全てのペプチドについて、NA単独投与群と比較して、NA特異的抗体価に変化が無かったものの、1種類のペプチド(FL4)については、NA単独投与群と比較して、顕著な抗体産生の増強が確認された(図3)。その強度は、既存のアジュバントである水酸化アルミニウムとNAの共投与群と比較しても強いものであった。以上の結果から、樹状細胞特異的モチーフを有していてもワクチンアジュバント効果に繋がるわけではないが、FL4のみが、既存のアジュバント抜きで、非常に強いワクチンアジュバント効果を誘導し得ることが明らかとなった。 そこで次に、モデル抗原ではなく、実際の感染症ワクチンに展開可能な抗原を用いて、FL4の有用性を評価した。本検討では、肺炎球菌ワクチンにおける有望なワクチン抗原として期待されるPspA蛋白質を用いた。PspA蛋白質とFL4の融合蛋白質を大腸菌で作製した後、マウスに投与し、PspA特異的抗体価を評価した。その結果、NAを用いた検討と同様に、他のペプチドを用いた場合には抗体価の上昇が確認されない一方で、FL4では、PspA特異的抗体価が強く誘導された。また、陽性コントロールとしてTLR9リガンドであるCpGをアジュバントとして用いたが、同等の抗体産生誘導を示したことから、FL4は強い抗体産生誘導能を有することが明らかとなった。さらにワクチン後、肺炎球菌を感染させることで、感染防御能を評価した。その結果、未処理群や野生型PspAワクチン群では、顕著な体重減少と生存率の低下が観察された一方で、PspA-FL4ワクチン群では、完全な感染防御が観察された。以上の結果から、FL4はペプチド性ワクチンアジュバントとして極めて優れた特性を有することが明らかとなった。 細菌などを標的としたワクチン開発においては抗体産生誘導が重要になる一方で、ウイルスやがんを標的としたワクチン開発においては、CD8陽性細胞傷害性T細胞(CTL)の誘導が必須となる。そこで、FL4のCTL誘導能を評価した。本検討では、モデル抗原としてニワトリ卵白アルブミン(OVA)由来のMHCクラスⅠエピトープペプチドであるSL8ペプチドを用いて、SL8とFL4の融合ペプチドによるCTL誘導能を評価した。また、アジュバントとしてCpGオリゴを用いた。その結果、SL8とCpGの共投与群では全くCTL誘導が観察されない一方で、FL4により極めて強いCTLが誘導されることが明らかとなった。以上の結果から、FL4は抗体産生のみならず、CTLをも誘導可能なペプチドキャリアであることが判明した。 3. 今後の展開(計画等があれば) 本検討は全てモデル動物を用いた検討であり、ヒト細胞などを用いた検討を実施していない。今後は、FL4ペプチドが、ヒト樹状細胞にも作用し、ヒトでも免疫誘導可能な可能性を検証する必要性がある。さらに、FL4の免疫誘導メカニズムについても不明な点が多く、その解明も必要と考えている。 4. 連絡先 〒565-0871 大阪府吹田市山田丘3-1 TEL: 06-6877-4919 Email: y-yoshioka@biken.osaka-u.ac.jp −93−

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