2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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有効かつ安全な感染症ワクチンの開発に資する新規生理活性ペプチドの創製 大阪大学微生物病研究所 特任准教授(常勤) 吉岡 靖雄 1. 研究の目的と背景 近年、病原体由来の蛋白質やペプチドを抗原として用いたサブユニットワクチンが注目されている。一方で、抗原単独では十分な防御免疫が誘導できず、ワクチン開発における障壁となっている。本観点から我々は、樹状細胞特異的に抗原やアジュバントを送達可能な機能性分子の創製を図っている。本研究では、感染症ワクチンの開発に資する新規ワクチンアジュバントの開発を目標に、7アミノ酸からなる約10億種類(207種類)のペプチドを表面提示したランダムペプチド提示ファージライブラリを用い、樹状細胞選択的に結合することで、抗原を樹状細胞に効率的に送達しつつ、さらに、樹状細胞を活性化可能な新規生理活性ペプチドを開発したうえで、感染症に対するワクチンアジュバントとしての有用性を評価した。 2. 研究内容 (実験、結果と考察) 本研究では、7アミノ酸からなる10億種類のランダムペプチドを表面提示したファージライブラリを用いた。なお、将来的な創薬展開を念頭に、環状ペプチドではなく直鎖状ペプチドを提示したファージライブラリを用いた。本ライブラリーを用い、樹状細胞選択的に結合可能なペプチドの同定を図った。まず、ファージライブラリをT細胞株もしくは上皮細胞株と混合し、これら細胞には結合しないファージクローンを回収した。その後、回収ファージクローンをin vitroで分化誘導した樹状細胞と混合し、樹状細胞選択的に結合可能なファージクローンを回収した(図1)。このスクリーニングを3回繰り返すことで、回収されるファージ量が約20倍上昇したことから、樹状細胞選択に結合し得るファージクローンが選択・濃縮されていることが判明した。次に、約200種類のファージクローンを回収し、個々のクローンについて、樹状細胞への結合性をフローサイトメーターで評価した。その結果、約40クローンについて、樹状細胞に結合し得ることが明らかとなった。なお、これらクローンについて、T細胞株や上皮細胞株には結合しないことも確認しており、樹状細胞選択性は高いものと考えられた。次に、これらファージクローンが表面提示しているペプチド配列について解析した結果、40クローン中30クローンにおいて、配列は異なるものの、同一のモチーフを含むことが明らかとなった。以上の結果から、このモチーフ(樹状細胞特異的モチーフと略す)が、樹状細胞選択的な結合に重要と考えられた。 次に、30個のペプチド配列の中からランダムに選択した約10種類のペプチド配列について、合成ペプチドを用いて樹状細胞への結合性を評価した。マウス脾臓から回収した樹状細胞を用いて評価した結果、樹状細胞サブセットの中でも、plasmacytoid樹状細胞(pDC)に強く結合することが判明した(図2)。また、個々のペプチドについて、競合阻害などの検討から、同一の受容体に結合することが明らかとなった。また、過去の文献情報を基に、樹状細胞特異的モチーフが蛋白質Xに結合する可能性を考え、蛋白質Xに対する抗体存在下で、樹状細胞写真 25mm× 30mm程度−92−発表番号 45〔中間発表〕

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